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東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)119号 判決

全事件原告

谷澤サカエ

右訴訟代理人弁護士

早川忠孝

河野純子

登坂真人

右早川忠孝訴訟復代理人弁護士

濵口善紀

全事件被告

亡中村佑二訴訟承継人

中村須巳

全事件被告

亡中村佑二訴訟承継人

中村司

右両名訴訟代理人弁護士

白上孝千代

原田昇

甲事件及び乙事件被告

綾部弘子

石井千穂

石田邦子

甲事件被告

斧原俊昭

甲事件及び乙事件被告

大和田茂

小田昭子

織田孝正

北川太一

後藤康彦

佐藤ちさ

高原二郎

竹内隆

高柳正幸

饒村清司

畠中次郎

平林亨

増田節子

松本清

柳田直規

亡矢萩文雄訴訟承継人

矢萩眞司

亡矢萩文雄訴訟承継人

澁谷眞理子

全事件被告

宮本惠理子

甲事件及び乙事件被告

池田泰子

右二三名訴訟代理人弁護士

佐伯静治

佐伯仁

主文

一  甲事件の訴えのうち、被告後藤康彦に対し金二万三五三五円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告佐藤ちさに対し金一万八七〇九円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告饒村清司に対し金三万二七八〇円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告平林亨に対し金一万〇七〇〇円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める各請求並びに中村佑二訴訟承継人被告中村須巳及び同被告中村司に対する各請求を除くその余の各請求に係る訴えをいずれも却下する。

二  甲事件の請求のうち、被告後藤康彦に対し金二万三五三五円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告佐藤ちさに対し金一万八七〇九円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告饒村清司に対し金三万二七八〇円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告平林亨に対し金一万〇七〇〇円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める各請求並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳及び同被告中村司に対する各請求をいずれも棄却する。

三  乙事件の訴えのうち、被告佐藤ちさに対し金六万二〇六八円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告柳田直規に対し金一五四万八〇三七円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める各請求並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳及び被告中村司に対する各請求を除くその余の各請求に係る訴えをいずれも却下する。

四  乙事件の請求のうち、被告佐藤ちさに対し金六万二〇六八円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告柳田直規に対し金一五四万八〇三七円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める各請求並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳及び被告中村司に対する各請求をいずれも棄却する。

五  丙事件の訴えのうち、被告宮本惠理子に対し金二万七五七六円及びこれに対する昭和五九年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める請求並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳及び被告中村司に対する各請求を除くその余の各請求に係る訴えをいずれも却下する。

六  丙事件の請求のうち、被告宮本惠理子に対し金二万七五七六円及びこれに対する昭和五九年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める請求並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳及び同被告中村司に対する各請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用は全事件を通じて全事件原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  甲事件の請求の趣旨

1  亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳は、東京都に対し、金五三五〇円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  亡中村佑二訴訟承継人被告中村司は、東京都に対し、金五三五〇円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3  被告綾部弘子は、東京都に対し、金一五万八三六八円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

4  被告石井千穂は、東京都に対し、金一七万四三五四円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

5  被告石田邦子は、東京都に対し、金二〇万四九九三円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

6  被告斧原俊昭は、東京都に対し、金一七八八円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

7  被告大和田茂は、東京都に対し、金一二万五四八五円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

8  被告小田昭子は、東京都に対し、金一六万四三〇〇円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

9  被告織田孝正は、東京都に対し、金八万四四四〇円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

10  被告北川太一は、東京都に対し、金一四万一〇四二円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

11  被告後藤康彦は、東京都に対し、金七万一一八〇円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

12  被告佐藤ちさは、東京都に対し、金五万六七一八円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

13  被告高原二郎は、東京都に対し、金一二万九一九五円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

14  被告竹内隆は、東京都に対し、金八万二一三二円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

15  被告高柳正幸は、東京都に対し、金七万〇〇七二円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

16  被告饒村清司は、東京都に対し、金八万八六七〇円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

17  被告畠中次郎は、東京都に対し、金二万〇七〇二円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

18  被告平林亨は、東京都に対し、金二六万三二五八円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

19  被告増田節子は、東京都に対し、金六万九二五五円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

20  被告松本清は、東京都に対し、金一万八四四一円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

21  被告柳田直規は、東京都に対し、金二二万七三七〇円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

22  亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩眞司は、東京都に対し、金九万〇九四八円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

23  亡矢萩文雄訴訟承継人被告澁谷眞里子は、東京都に対し、金九万〇九四八円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

24  被告宮本惠理子は、東京都に対し、金四万一三六四円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

25  被告池田泰子は、東京都に対し、金五万六二七六円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

26  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  甲事件の請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

三  乙事件の請求の趣旨

1  亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳は、東京都に対し、金一一四万七三〇五円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  亡中村佑二訴訟承継人被告中村司は、東京都に対し、金一一四万七三〇五円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3  被告綾部弘子は、東京都に対し、金一三万四七〇七円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

4  被告石井千穂は、東京都に対し、金八万九五七五円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

5  被告石田邦子は、東京都に対し、金八万九八五七円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

6  被告大和田茂は、東京都に対し、金六万七三九九円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

7  被告小田昭子は、東京都に対し、金六万七四三七円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

8  被告織田孝正は、東京都に対し、金四万九一六七円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

9  被告北川太一は、東京都に対し、金九万七六三八円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

10  被告後藤康彦は、東京都に対し、金七万八六四七円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

11  被告佐藤ちさは、東京都に対し、金九万〇一九九円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

12  被告高原二郎は、東京都に対し、金七万七二六七円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

13  被告竹内隆は、東京都に対し、金四万九三七九円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

14  被告高柳正幸は、東京都に対し、金一〇万九五九六円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

15  被告饒村清司は、東京都に対し、金六万四八二八円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

16  被告畠中次郎は、東京都に対し、金五万二二三二円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

17  被告平林亨は、東京都に対し、金九万〇九七五円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

18  被告増田節子は、東京都に対し、金五万五四一六円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

19  被告松本清は、東京都に対し、金九万一五七四円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

20  被告柳田直規は、東京都に対し、金二四五万四五九七円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

21  亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩眞司は、東京都に対し、金五万三四五一円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

22  亡矢萩文雄訴訟承継人被告澁谷眞里子は、東京都に対し、金五万三四五一円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

23  被告宮本惠理子は、東京都に対し、金三万七四五七円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

24  被告池田泰子は、東京都に対し、金一万七九〇六円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

25  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  乙事件の請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

五  丙事件の請求の趣旨

1  亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳及び被告宮本惠理子は、東京都に対し、各自金二八万〇三五五円及びこれに対する昭和五九年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  亡中村佑二訴訟承継人被告中村司及び被告宮本惠理子は、東京都に対し、各自金二八万〇三五五円及びこれに対する昭和五九年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  丙事件の請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  甲事件の請求の原因

1  当事者

(一) 原告は、東京都の住民である。

(二) 亡中村佑二(以下「中村」という。)は、本件で問題とされる支出の当時東京都立向丘高等学校(以下「向丘高校」という。)の定時制の課程の教頭であった。

(三) 被告綾部弘子(以下「被告綾部」という。)、被告宮本惠理子(以下「被告宮本」という。)、亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩眞司及び同被告澁谷眞里子、以上の被告四名を除くその余の甲事件の被告ら(以下、それぞれの氏によって「被告石井」のようにいう。なお、同被告らのうち被告佐藤の姓は、もと水上であったところ佐藤と改姓されたものであり、以下改姓の前後を通じて「被告佐藤」という。)と矢萩文雄(以下「矢萩」という。)(以上の者を総称して以下「甲事件教諭ら」という。)は、いずれも右当時向丘高校の教諭であった。

(四) 被告綾部は、右当時向丘高校の養護教諭であった。被告宮本は、右当時向丘高校の司書であった(以下、右被告両名と甲事件教諭らとを併せて「甲事件職員ら」という。)。

(五)(1) 中村は平成三年六月二九日死亡した。同日当時、亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳はその妻であり、亡中村佑二訴訟承継人被告中村司(以下、亡中村佑二訴訟承継人被告中村須巳と併せて「亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら」という。)はその子であった。

(2) 矢萩は、平成三年一一月九日死亡した。同日当時、亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩眞司及び同被告澁谷眞里子(以下、併せて「亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩ら」という。)はその子であった。

2  公金の支出

(一) 給料等の支給

甲事件職員らは、東京都から、昭和五八年八月、同年一〇月、昭和五九年一月又は同年四月のいずれか若しくは全部の月において、後記3(一)の勤務しなかった時間がないものとして各月分の給与及び調整手当(以下「給料等」という。)の支給を受けた。

(二) 定時制通信教育勤務手当の支給

被告後藤、被告佐藤、被告饒村は、東京都から、昭和五八年九月において、同年八月分の各定時制通信教育勤務手当の支給を受けた。

(三) 通勤手当の支給

被告平林は、東京都から、昭和五八年八月において、同月分の通勤手当の支給を受けた。

3  支出の違法

(一) 給料等支給の違法

(1) 学校職員の給与に関する条例一六条によれば、職員が勤務をしないときは、その勤務しないことにつき教育委員会の承認のあった場合を除くほか、一定の計算によって給料等を減額して支給するものとされ、学校職員の給与に関する条例施行規則七条によれば、給与の支出負担行為者である東京都教育庁人事部人事計画課長が、当月中に勤務しなかった時間のある教職員については、右勤務しなかった時間に係る給料等の過払額を翌月のそれから減額するものとされている。

(2) 甲事件職員らは、昭和五八年七月、同年九月、同年一二月又は五九年三月のいずれか若しくは全部の月において、別表第一(「やみ手当及びやみ休暇に関する返還請求内訳」と題する表)に記載した時間につき勤務しなかった。

右各時間の属する期間は、昭和五八年七月一五日ないし同月一九日、同年九月二一日ないし同月二九日、同年一二月一五日から同月二九日又は昭和五九年三月一二日ないし同月二二日の各期間のいずれか若しくは全部であるところ、これらは向丘高校定時制の定期試験終了後の期間であり、慣行上その間授業は行われず、生徒は登校を要しない期間とされ、職員は「試験休み期間」と称して研修の承認を受けるなどのことをしなくとも出勤を要しない期間として扱われてきたものであり、甲事件職員らはこのような慣行に従って勤務をしなかったものである。しかしながら、このような慣行は、法的根拠を欠く違法なものであり、これに従ったからといって勤務をしたことになるものではない。

したがって、右被告らは、右時間に勤務しなかったのにもかかわらず、右2(一)のとおり減額されていない給料等の支給を受けたものであるから、各給料等の支給のうち、右勤務していなかった時間に係る部分は違法である。

(二) 定時制通信教育勤務手当支給の違法

(1) 都立の高等学校で、本務として定時制の課程で行う教育に従事する教諭には定時制通信教育勤務手当を支給するものとされ(昭和六一年条例第一三二号による改正前の学校職員の給与に関する条例一五条の四第一項)、定時制通信教育勤務手当は、その月分を翌月中に支給するが(定時制通信教育勤務手当支給に関する規則五条)、月の一日から末日までの間において引続き一六日以上出張中、研修中又は勤務しなかった場合には支給しないものとされている(同規則四条)。

(2) 被告後藤、被告佐藤及び被告饒村は、昭和五八年八月において、引続き一六日以上出張中若しくは研修中であり、又は勤務をしなかったから(右各被告の出勤簿上、被告後藤は同月一九日に、被告佐藤は同月一八日に、被告饒村は同月一二日にそれぞれ出勤の押印があり、あたかも右各日に勤務が行われたかのような外観を呈しているが、これらは、右各被告において、勤務をしていないにもかかわらず定時制通信教育勤務手当の支給を受けるために後日押印した虚偽のものである。)、同規則四条により定時制通信教育勤務手当を支給されないこととなる。よって、それにもかかわらず右各被告に対してされた同月分の定時制通信教育勤務手当の支給は違法である。

(三) 通勤手当支給の違法

(1) 学校職員には通勤手当が支給されるが(学校職員の給与に関する条例一四条)、通勤手当支給規程七条によれば、月の一日から末日までの期間の全日数にわたって通勤しないこととなるときは、これを支給しないものとされている。

(2) 被告平林は、昭和五八年八月において、同月一日から同月末日までの期間の全日数にわたって通勤しなかったにもかかわらず、右2(三)のとおり通勤手当の支給を受けたものであるから、右支給は違法である。

4  責任

(一) 亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら

中村は、被告平林が昭和五八年八月分の通勤手当の支給要件を満たさないことを知りながら、その返還を免れさせるため出勤簿の表示を改竄した。よって、中村は、不法行為に基づく損害賠償責任として、右通勤手当の額に相当する額に相当する損害を賠償する責任を負い、亡中村佑二訴訟承継人被告中村らは、これを承継した。

(二) 甲事件職員ら

甲事件職員らは、違法な公金の支出に係る相手方であり、別表第一の「やみ手当及びやみ休暇に関する返還請求内訳」と題する表記載のとおり各過払分給料等、各定時制通信教育勤務手当又は通勤手当を受領した。

しかしながら、各過払給料等、各定時制通信教育勤務手当又は通勤手当は、右3のとおりその要件が満たされていないにもかかわらず支給されたものであり、甲事件職員らは、このことを知ってこれらを受領したものである。したがって、同人らは、それぞれの受領した過払給料等、定時制通信教育勤務手当又は通勤手当の額に相当する不当利得金の返還義務を負う(亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩らは、矢萩の義務を承継した。)。

5  東京都の損害及び損失

東京都は、各過払給料等、各定時制通信教育勤務手当及び通勤手当の支給により、右各金額の公金を支出したから、中村の右4(一)の不法行為により前記通勤手当に相当する額の損害を被り、また、甲事件職員らの右4(二)の各過払給料等及び各定時制通信教育勤務手当の受領によりこれとそれぞれ同額の損失をした。

6  監査請求

原告は、昭和五九年四月一四日東京都監査委員に対し、昭和五八年度における向丘高校定時制教職員に対する定時制通信教育勤務手当支給の事実及び同年度における同校定時制教職員に対する「試験休み期間」に係る給与支給の事実についてそれぞれ監査請求(以下、定時制通信教育勤務手当支給の事実についての監査請求を「やみ手当監査請求」といい、同年度における同校定時制教職員に対する「試験休み期間」に係る給与支給の事実についての監査請求を「やみ休暇監査請求」という。)をしたところ、同監査委員は、同年五月七日原告に対し、右各監査請求を却下する旨の各通知をした。

7  よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、東京都に代位して、亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら、甲事件職員らのうち矢萩を除くその余の被告ら及び亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩らに対し、亡中村祐二訴訟承継人被告中村らに対しては損害賠償請求として、甲事件職員らのうち矢萩を除くその余の被告ら及び亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩らに対してはいずれも不当利得返還請求として、各自違法に支出された各公金の額(亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら及び亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩らに対しては、それぞれの半額)に相当する金員及びこれに対する各過払給料等、各定時制通信教育勤務手当又は通勤手当の支給の後である昭和五九年六月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金(亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら)又は法定利息金(甲事件職員らのうち矢萩を除くその余の被告ら及び亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩ら)を東京都に支払うよう求める。

二  乙事件の請求の原因

1  当事者

(一) 前記一(甲事件の請求の原因)1(当事者)(一)と同旨

(二) 同(二)と同旨

(三) 被告綾部、被告宮本、亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩ら、以上の被告四名を除くその余の乙事件の被告らと矢萩(以上の者を総称して以下「乙事件教諭ら」という。)は、いずれも右当時向丘高校の教諭であった。

(四) 被告綾部は、右当時向丘高校の養護教諭であった。被告宮本は、右当時向丘高校の司書であった(以下、右被告両名と乙事件教諭らとを併せて「乙事件職員ら」という。)。

(五) 前記一(甲事件の請求の原因)1(当事者)(五)と同旨

2  公金の支出

乙事件職員らは、東京都から、昭和五八年六月から昭和五九年四月までの各月において、後記3の勤務しなかった時間がないものとして右各月分の給料等の支給を受けた。

3  支出の違法

(一) 前記一(甲事件の請求の原因)3(支出の違法)(一)のとおり、職員が勤務をしないときは、原則として一定の計算によって給料等を減額して支給するものとされ、当月中に勤務しなかった時間のある教職員については、右勤務しなかった時間に係る給料等の過払額を翌月のそれから減額するものとされている。

(二) 中村及び乙事件職員らは、昭和五八年五月から昭和五九年三月までの各月において、左の(1)ないし(4)のとおり、勤務をしていなかった。それにもかかわらず、中村及び乙事件職員らは、右2のとおり減額されていない給料等の支給を受けたものであるから、各給料等の支給のうち、右勤務していなかった時間に係る部分は違法である。

(1)ア 別表第二の乙事件職員ら(被告池田を除く。)の各(A)欄又は(B)欄(被告宮本のみ(A)欄及び(C)欄)に記載した時間につき、向丘高校定時制においては、慣行上勤務時間内に職場会又は校内委員会を開催しても職員団体の活動として当然視され、これらに参加した時間においても勤務したものと扱われていたところ、かかる慣行に従い職場会又は校内委員会に参加して職員団体の活動をした。

イ 右の校内委員会の開催は、次のとおり違法である。

地方公務員は職務専念義務を負い、これが免除されるのは法律又は条例に特別の定めがある場合に限られる(地方公務員法三〇条、三五条)、職員団体の活動もかかる前提の下に許されるものであり、「適法な活動」に限って勤務時間中においてもこれを行うことが認められている(同法五五条八項)。しかして、東京都においては、職員の職務に専念する義務の特例に関する条例二条三号によれば、職員は、研修を受ける場合又は職員の厚生に関する計画の実施に参加する場合を除く外人事委員会が定める場合には、予め任命権者の承認を得て職務専念義務を免除されることができるものとされ、右の人事委員会の定める場合として、職員の職務に専念する義務の免除に関する規則二条一号は、職員が職員団体の運営のため特に必要な限度内であらかじめ職員団体が任命権者の許可を受けたときにおいて、その会合又はその他の業務に参加する場合を定めている。また、職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例(以下「行為制限条例」という。)二条一項によれば、職員が、地方公務員法五五条八項に基づき「適法な交渉及びその準備」を行う場合には給与を受けながら職員団体のため活動を行うことができるものとされている。

したがって、東京都の職員である乙事件職員らが、勤務時間中に職員団体のための活動である校内委員会に参加し、給与を受けることができるのは、校内委員会が適法な交渉又はその準備に当たり、かつ、予め職員団体が任命権者の許可を受けて職員の職務専念義務が免除されている場合に限られることとなる。

しかして、行為制限条例二条一項にいう適法な交渉の準備とは、予備交渉や適法な交渉に出席するための往復時間のように適法な交渉と直接因果関係を有するものに限定されると解すべきである。そうであるとすれば、校内委員会は、東京都立学校教職員組合の執行委員会及び本部委員会で提案された議題を各高等学校の職場会で討議するに先立って、各高等学校内部の校内委員によって開かれるものであって、適法な交渉と直接因果関係を有するものではないから、右にいう適法な交渉の準備には当たらないというべきである(適法な交渉の準備の範囲に関する各通達(四五総勤労発八三号及び四五総勤労発八六号)によれば、都立学校の職員について適法な交渉の準備に当たるものは学区ごとに設置される大会、委員会、執行委員会及び専門部会であるとされている。したがって、右各通達によっても、校内委員会は適法な交渉の準備に当たらない。)。

また、適法な交渉又はその準備であっても、これに参加する職員が職務専念義務を免除され、給与を受けるためには、四五総勤労発八三号によれば、職員団体が承認権者に対し予めその毎月の月間行事予定表及び期間の構成員を明らかにした名簿を提出するとともに、職員が承認権者に対し事前申請手続をし、当該機関の運営終了後三日以内に職員の参加状況を通知することを要し、これらの手続が履践されないときは、承認権者は承認をせず、又は既にした承認を取り消すものとされている。しかるに、被告大和田、被告増田、被告後藤及び被告高柳が昭和五八年度において校内委員会に参加したことについて、右のような手続は全く行われていない。

(2) 別表第二の中村、被告綾部、被告後藤及び被告柳田の各(D)欄に記載した時間につき、向丘高校定時制においては、慣行上自己の担任している授業の時間のみが勤務時間であると考えられていたところ、右の者らは、かかる慣行に従い担任している授業がないために登校せず、又は下校した。

(3) 別表第二の被告佐藤の(E)欄、被告高柳の(F)欄及び被告柳田の(E)、(F)、(G)各欄に記載した時間につき、向丘高校定時制においては、慣行上毎週一日の研修の承認を受けた日をいわば既得権と考え、その日には出勤せず、また実際に研修をしなくとも研修をしたものとして扱われてきたところ、右の者らは、かかる慣行に従い、研修をするとしてその承認を受けているのにこれをしなかった(被告佐藤は、病気入院中であり勤務できる状態にないにもかかわらず研修をしたかのように装った。被告高柳は、研修と称して職員団体の活動に参加した。被告柳田は、バドミントン部顧問としての技術向上のための研修であると称して、個人的にバドミントンの社会人大会に出場する目的で、研修すべき時間及び日をその練習に充てていた。)。

(4) 別表第二の中村及び乙事件職員らの各(H)欄に記載した時間につき、向丘高校定時制においては、慣行上定期試験期間中や学校行事等のある日には、出勤時限までに出勤せず、又は早退しても正規の勤務時間の全部につき勤務したものと扱われてきたところ、右の者らは、かかる慣行に従い、定期試験や学校行事等の期間であるために登校せず、又は下校した。

4  責任

(一) 亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら

(1)ア 中村は、被告佐藤が昭和五八年八月一九日から同月三一日までの間は病気入院中のため研修をすることができない状態にあることを熟知していたにもかかわらず、同被告をしてその出勤簿の同月一九日、二〇日及び二二日ないし二七日の各欄に押印させ、よって、同被告が真実は右各日において研修をしていないのにこれをしたように装って同被告に右各日に係る部分を減額されていない同年九月分の給料等の支給を受けさせた。したがって、中村は、右給料等の額に相当する額の損害を賠償する義務を負う。

イ 中村は、被告柳田が右3(二)のとおり研修をしないことを熟知していたにもかかわらず、同被告が作成提出した研修承認願及び研修報告書に押印し、よって、同被告が真実は右各日において研修をしていないのにこれをしたように装って同被告に右各日に係る部分を減額されていない同年五月から昭和五九年三月までの各月分の給料等の支給を受けさせた。したがって、中村は、右給料等の合計額に相当する額の損害を賠償する義務を負う。

(2) 中村は、違法な公金の支出に係る相手方であり、別表第二の中村の(D)欄及び(H)欄記載のとおり各過払給料等を受領した。

しかしながら、各過払給料等は、右3のとおりその要件が満たされていないにもかかわらず支給されたものであり、中村は、このことを知ってこれらを受領したものである。したがって、中村は、その受領した過払給料等の額に相当する不当利得金の返還義務を負う。

(3) 亡中村佑二訴訟承継人被告中村らは、右(1)の各損害賠償義務及び右(2)の不当利得返還義務を承継した。

(二) 乙事件職員ら

乙事件職員らは、違法な公金の支出に係る相手方であり、別表第二の各職員らの(A)欄ないし(H)欄のいずれかに記載のとおり各過払分給料等を受領した。

しかしながら、各過払給料等は、右3のとおりその要件が満たされていないにもかかわらず支給されたものであり、乙事件職員らは、このことを知ってこれらを受領したものである。したがって、乙事件職員らは、それぞれの受領した本件過払給料等の額に相当する不当利得金の返還義務を負う(亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩らは、矢萩の義務を承継した。)。

5  東京都の損害及び損失

東京都は各過払給料等の支給により、右各金額の公金を支出したから、中村の右4(一)(1)の各不法行為により前記各給与の合計額に相当する額の損害を被り、また、中村の右4(一)(2)及び乙事件職員らの右4(二)の各過払給料等の受領によりこれとそれぞれ同額の損失をした。

6  監査請求

原告は、昭和五九年五月九日東京都監査委員に対し、昭和五八年度における向丘高校定時制教職員及び司書に対する学校の休業日、毎週一回の研修日、毎日三、四時間の研修時間に係る給与支給の事実及び同年度における同校定時制教職員及び司書に対する持ち時間以外の時間等に係る給与支給の事実についてそれぞれ監査請求(以下、学校の休業日、毎週一回の研修日、毎日三、四時間の研修時間に係る給与支給の事実についての監査請求を「研修日監査請求」といい、持ち時間以外の時間等に係る給与支給の事実についての監査請求を「やみ慣行監査請求」という。)をしたところ、同監査委員は、同年六月二一日原告に対し、右各監査請求を却下する旨の通知をした。

7  よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、東京都に代位して、

(一) 亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら、乙事件職員らのうち矢萩を除くその余の被告ら及び亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩らに対し、不当利得返還請求として、各自法律上の原因なくして利得した各公金の額(亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら及び亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩らに対しては、それぞれの半額)に相当する金員及びこれに対する各過払給料等の支給の後である昭和五九年七月三一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による法定利息金を、

(二) 亡中村佑二訴訟承継人被告中村らのそれぞれに対し、いずれも不法行為に基づく損害賠償請求として、前記給与の合計額の半額に相当する金員及びこれに対する不法行為後である昭和五九年七月三一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、

それぞれ東京都に支払うよう求める。

三  丙事件の請求の原因

1  当事者

(一) 前記一(甲事件の請求の原因)1(当事者)(一)と同旨

(二) 同(二)の事実及び同(三)のうち被告宮本に関する事実と同旨

2  公金の支出

(一) 超過勤務手当の支給

被告宮本は、東京都から、昭和五八年一〇月において、後記3(一)のとおり正規の勤務時間を超えて勤務をしたものとして同年九月分の超過勤務手当の支給を受けた。

(二) 給料等の支給

被告宮本は、東京都から、昭和五八年七月、同年九月ないし同年一二月、昭和五九年一月ないし同年三月の各月において、後記3(二)の勤務しなかった時間がないものとして右各月分の給料等の支給を受けた。

3  支出の違法

(一) 超過勤務手当支給の違法

(1) 東京都教育委員会は、公務のため臨時に必要があるときは職員に対し正規の勤務時間を超えて勤務すること等を命ずることができるものとされ(学校職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例一六条)、これを命ぜられた職員は、正規の時間を超えて勤務した全時間に対して、勤務一時間につき給与条例二〇条に定める勤務一時間当たりの給与額の一〇〇分の一二五(その勤務が午後一〇時から翌日の午前五時までの間である場合には、一〇〇分の一五〇)の割合に相当する額を、超過勤務手当として支給するものとされ(同条例一七条)、超過勤務手当は、その月分を翌月中に支給するものとされている。

(2) 被告宮本は、別表第三の(1)欄記載の時間において正規の勤務時間を超えて勤務した事実がないにもかかわらず、右2(一)のとおり超過勤務手当の支給を受けたものであるから、右支給は違法である。

(二) 給料等支給の違法

(1) 前記一(甲事件の請求の原因)3(支出の違法)(一)のとおり、職員が勤務をしないときは、原則として一定の計算によって給料等を減額して支給するものとされ、当月中に勤務しなかった時間のある教職員については、右勤務しなかった時間に係る給料等の過払額を翌月のそれから減額するものとされている。

(2) 被告宮本は、昭和五八年七月、同年九月ないし同年一二月、昭和五九年一月ないし同年三月の各月において、別表第三の(2)欄に記載した時間につき、教育職におけるような時間研修をすると称して登校せず、勤務をしていなかった。それにもかかわらず、同被告は、右2(二)のとおり減額されていない給料等の支給を受けたものであるから、各給料等の支給のうち、右勤務していなかった時間に係る部分は違法である。

4  責任

(一) 亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら

中村は、教頭という立場において、被告宮本の左の不正行為を積極的になさしめたものである。よって中村は、不法行為に基づく損害賠償請求として、被告宮本の不当利得金に相当する額を賠償する責任を負い、亡中村佑二訴訟承継人被告中村らはこれを承継した。

(二) 被告宮本

被告宮本は、違法な公金の支出に係る相手方であり、別表第三記載のとおり前記の超過勤務手当及び給料等を受領した。しかしながら、右超過勤務手当及び給料等は、右3のとおりその要件が満たされていないにもかかわらず支給されたものであり、同被告は、このことを知ってこれらを受領したものである。したがって、同被告は、その受領した超過勤務手当及び給料等の額に相当する不当利得金の返還義務を負う。

5  東京都の損失

東京都は、前記の超過勤務手当及び給料等の支給により、前記金額の公金を支出し、これと同額の損失をした。

6  監査請求

原告は、昭和五九年七月七日東京都監査委員に対し、昭和五八年度における向丘高校定時制司書に対する同司書が「時間研修」及び「研修日」と称する時間及び日に係る給与支給の事実及び同年度における同校定時制事務職員に対する超過勤務手当支給の事実についてそれぞれ監査請求(以下、「時間研修」及び「研修日」と称する時間及び日に係る給与支給の事実についての監査請求を「事務職員監査請求」といい、超過勤務手当支給の事実についての監査請求を「超過勤務監査請求」という。)をしたところ、同監査委員は、同年九月三日原告に対し、右各監査請求を却下する旨の通知をした。

7  よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、東京都に代位して、

(一) 亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し、いずれも不法行為に基づく損害賠償請求として、各二八万三〇五五円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年一〇月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、

(二) 被告宮本に対し、不当利得返還請求として、法律上の原因なくして利得した公金の額に相当する金五六万〇七一〇円及びこれに対する前記給料等及び超過勤務手当の支給の後である昭和五九年一〇月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による法定利息金を、

それぞれ東京都に支払うよう求める。

四  被告らの全事件の本案前の主張

1  住民監査請求は、その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実を他の事項から区別し、特定して認識できるように個別的、具体的に摘示してしなければならず、かかる対象の特定を欠く請求は不適法であり、その監査の結果に不服であるとして提起された住民訴訟は、適法な監査請求を経ない不適法な訴えであると解されるところ、本件各監査請求は、監査請求書及び添付書額を綜合しても、個々の支出の日時、支出金額、支出先、支出目的等が明らかにされておらず、原告が監査を請求した公金の支出が、他の支出と区別して特定認識され得る程度に個別的、具体的に摘示されているとはいえないから、その対象の特定を欠くものとして、不適法である。よって、本件訴えは不適法である。

2  仮に、監査請求に当たり、個々の支出の日時、支出金額、支出先、支出目的等のすべてが明らかにされなかったとしても、その対象となる財務会計上の行為又は事実につき、その性質及び相手方や、その目的等にかんがみてこれが違法又は不当であることの原因の事実として請求人の主張するところが、監査請求書及び添付書類によって識別され、特定される場合においては、かかる監査請求が適法となると解する余地があるとしても、本件監査請求は、右のような事項の前提となる監査請求の対象行為が特定されていない以上不適法であることに変わりはないから、本件訴えは不適法である。

仮に、以下の各支出については監査請求の対象として特定されているということができるとしても、その余の各支出は監査請求書及び添付書類を綜合しても到底識別、特定され得るものとはいい難いから、本件訴えのうち、それらに係る不当利得金(又は選択的に損害賠償金)の支払を求める部分は不適法である。

(一) 甲事件

被告平林に対し、昭和五八年八月分の通勤手当を支給したこと

(二) 乙事件

(1) 被告佐藤に対し、昭和五八年九月分の給料等を、同年八月一九日、二〇日及び二二日ないし二七日に係る部分を減額しないで支給したこと

(2) 被告柳田に対し、昭和五八年六月から昭和五九年四月までの各月分の給料等を、昭和五八年五月一一日、同月一八日、同月二五日、同年六月一日、同月八日、同月一五日、同月二二日、同月二九日、同月七月六日、同月一三日、同年八月一七日、同月二四日、同年九月七日、同月一四日、同月二一日、同月二八日、同年一〇月五日、同月一二日、同月一九日、同月二六日、同年一一月二日、同月九日、同月一六日、同月三〇日、同年一二月七日、同月一四日、同月二一日、昭和五九年一月一一日、同月二五日、同年二月一日、同月八日、同月一五日、同月二二日、同月二九日、同年三月七日、同月一四日、同月二一日及び同月二八日(昭和五八年五月から昭和五九年三月までの各水曜日)、昭和五八年五月二〇日(開校記念日)、同年七月二三日、同月二五日、同月二六日、同月二八日、同月三〇日、同月八月一日、同月二日、同月四日、同月六日、同月一一日、同月一三日、同月一六日、同月一八日、同月二〇日、同月二二日、同月二三日、同月二五日、同月二七日及び同月二九日ないし同月三一日(夏季休業日)、同年一〇月一日(都民の日)、同年一二月二二日ないし二四日、同月二六日、同月二七日及び昭和五九年一月五日ないし七日(冬季休業日)並びに同年三月二六日、同月二七日及び同月二九日ないし三一日(春季休業日)に係る部分をそれぞれ減額しないで支給したこと

五  被告らの全事件の本案前の主張に対する原告の反論

1  住民監査請求の制度が、地方財務行政についての専門的知識を欠き、またこれに関する情報への接近の手段を持たない住民に対し、監査委員の職権の発動を促すことを認めたものであることを考慮すれば、住民監査請求をするに当たり、請求人に要求されるべきことは、飽くまで、監査を求める行為等を、他の行為等と区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することに止まるものというべく、そこにいう「特定」の程度は、住民監査請求制度の実効性を無に帰するほど厳しいものであってはならないというべきである。

2  しかして、以下のとおり、本件訴えは、いずれも対象の特定に欠けるところのない監査請求を経たものであって、違法である。

(一) 甲事件

(1) やみ手当監査請求

同監査請求は、昭和五八年度の向丘高校定時制における夏季休業期間等の長期休業期間中に係る通勤手当及び定時制通信教育勤務手当の支給を問題としていることが明らかであり、被告高原、被告平林、被告佐藤、被告後藤及び被告饒村については監査請求書に氏名が摘示されている。しかして、原告が同監査請求を経たとして甲事件において請求するところは、被告後藤、被告佐藤及び被告饒村に対して支給された各定時制通信教育勤務手当並びに被告平林に対して支給された通勤手当に係る不当利得金の返還であるから、甲事件の訴えのうちこれに係る部分は、対象の特定に欠けるところのない適法な監査請求を経たものであって適法である。

(2) やみ休暇監査請求

同監査請求は、向丘高校定時制における「クラブ活動期間」(その期間は添付書類に表示されている。)に係る「やみ休暇」、なかんずく昭和五八年一二月一五日から同月一九日までの期間を取り上げ、同校定時制の全教諭及び職員について具体的に名前を列挙してその勤務実態を明らかにする書面を添付している。したがって、同監査請求の対象は特定されており、甲事件の訴えのうち右(1)の部分を除くその余の部分は、これを経たものであって適法である。

(二) 乙事件

(1) 研修日監査請求

同監査請求は、向丘高校定時制教員及び司書の「研修日」と称する「やみ休暇」を問題とするものであることが明らかであり、監査請求書等における教員、司書の具体的な氏名の明示はその一部に止まるが、同校定時制の教員、司書は当時総勢二三名に過ぎなかったのであるから、そのような記載をもって対象の特定としては十分というべきである。長期休業期間及び時間研修の時間は添付書類によって明らかにされている。しかして、原告が同監査請求を経たとして乙事件において請求するところは、被告柳田及び被告佐藤に対して支給された給料等(別表第二の被告佐藤の(E)欄及び被告柳田の(E)、(F)、(G)各欄に記載のもの)に係る不当利得金の返還であるから、乙事件の訴えのうちこれに係る部分は、対象の特定に欠けるところのない適法な監査請求を経たものであって適法である。

(2) やみ慣行監査請求

同監査請求は、向丘高校定時制教員及び司書の全員について、授業持ち時間以外の時間の「遅出・早帰り」、試験期間中の「遅出・早帰り・欠勤」及び勤務時間中の組合活動を問題とするものであり、右組合活動である校内委員会については、添付書類によって、毎週水曜日の第三時限に開かれ、被告大和田、被告増田、被告後藤及び被告高柳がこれに参加していることが明らかにされている。しかして、原告が同監査請求を経たとして乙事件において請求するところは、右組合活動である職場会と校内委員会の時間の給料等(別表第二の各(A)欄に記載のもの)、授業持ち時間以外の時間の遅出・早帰りの時間の給料等(同別表の各(B)欄に記載のもの)、試験期間中の遅出・早帰り・欠勤の時間の給料等(同別表の各(C)欄に記載のもの)並びに被告高柳及び被告宮本の組合活動の時間の給料等(同別表の各(D)欄ないし各(G)欄に記載のもの)に係る不当利得金の返還であるから、乙事件の訴えのうちこれに係る部分は、対象の特定に欠けるところのない適法な監査請求を経たものであって適法である。

(三) 丙事件

(1) 事務職員監査請求

同監査請求は、向丘高校定時制の宮本司書が教職員に準じた「時間研修」及び「研修日」を取得するとして欠勤しながら、それらの時間及び日に係る給料等の支給を受けていることを問題にし、監査請求書の提出の日(昭和五八年七月七日)以前一年間の給与の返還を求めるものである。しかして、原告が同監査請求を経たとして丙事件において請求するところは、右の時間及び日に係る不当利得金の返還であるから、丙事件の訴えのうちこれに係る部分は、対象の特定に欠けるところのない適法な監査請求を経たものであって適法である。

(2) 超過勤務監査請求

同監査請求は、向丘高校事務職員に対する超過勤務手当の「空支給」を問題にし、その添付書類において各事務職員に対する右「空支給」の額を明示して、その返還を求めるものである。しかして、原告が同監査請求を経たとして丙事件において請求するところは、右超過勤務手当の「空支給」のうち昭和五八年九月における八時間(四日間)の部分に係る不当利得金の返還であるから、丙事件の訴えのうちこれに係る部分は、対象の特定に欠けるところのない適法な監査請求を経たものであって適法である。

六  甲事件の請求の原因に対する被告らの認否

1  甲事件の請求の原因1(当事者)の事実は認める。

2  同2(公金の支出)の事実は認める。

3(一)(1) 同3(支出の違法)(一)(1)は認める

(2) 同(2)の事実は否認し、主張は争う。

(二)(1) 同(二)(1)は認める。

(2) 同(2)の事実は否認し、主張は争う。

(三)(1) 同(三)(1)は認める。

(2) 同(2)の事実は否認し、主張は争う。

4(一)  同4(責任)(一)(亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら)の事実は否認する。

(二)  同(二)(甲事件職員ら)の事実中、甲事件職員らがそれぞれ各給料等、各定時制通信教育勤務手当及び通勤手当を受領したことは認め、その余は否認する。主張は争う。

5  同5(東京都の損害及び損失)の主張は争う。

6  同6(監査請求)の事実は認める。

七  乙事件の請求の原因に対する被告らの認否

1  乙事件の請求の原因1(当事者)の事実に対する認否は、右六(甲事件の請求の原因に対する被告らの認否)1(当事者)のとおりである。

2  同2(公金の支出)の事実は認める。

3(一)  同3(支出の違法)(一)は認める。

(二)  同(二)の事実は否認し、主張は争う。

4(一)(1) 同4(責任)(一)(亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら)(1)の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実中、中村が各給料等を受領したことは認め、その余は否認する。主張は争う。

(二)  同(二)(乙事件職員ら)の事実中、乙事件職員らがそれぞれ各給料等を受領したことは認め、その余は否認する。主張は争う。

5  同5(東京都の損害及び損失)の主張は争う。

6  同6(監査請求)の事実は認める。

八  丙事件の請求の原因に対する被告らの認否

1  丙事件の請求の原因1(当事者)の事実に対する認否は、前記六(甲事件の請求の原因に対する被告らの認否)1(当事者)のとおりである。

2  同2(公金の支出)の事実は認める。

3(一)  同3(支出の違法)(一)は認める。

(二)  同(二)の事実は否認し、主張は争う。

4(一)  同4(責任)(一)(亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら)の事実は否認し、主張は争う。

(二)  同(二)(被告宮本)の事実中、被告宮本が超過勤務手当及び給料等を受領したことは認め、その余は否認する。主張は争う。

5  同5(東京都の損失)の主張は争う。

6  同6(監査請求)の事実は認める。

九  亡中村佑二訴訟承継人被告中村らの本案の主張

1  甲事件の請求の原因4(責任)(一)(亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら)について

中村は、昭和五八年一〇月ころ被告平林の出勤簿の同年八月分の欄に出勤の押印がなかったので同被告に同月の出勤の有無を尋ねたところ、同被告は同月八日及び同月二三日に出勤した旨の申出をし、中村においてこれを否定すべき理由もなかったので、同被告が右のとおり出勤したことを前提とする事務処理を肯定したに過ぎない。

2  乙事件の請求の原因4(責任)(一)(亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら)について

(一) 同(1)アについて

被告佐藤の昭和五八年八月一九日、二〇日及び二二日ないし二七日の各欄の「研修」の押印は、同被告が同年度の初めに提出した研修承認願の記載に基づき、そのころされたものである。中村は、右各日において同被告が入院していたことを、昭和五九年二月一五日同被告からその旨の申告を受け、右各日における研修を有給休暇に修正することを求められるに至り初めて知ったものである。そして、中村がこれを容れて右の研修を有給休暇に修正した措置は違法ではない。

(二) 同イについて

被告柳田が研修においてバドミントンの練習や試合をしていたとしても、同被告の職務に照らしそれは研修の目的に合致するものというべきであるのみならず、同被告は、研修を承認された期間において右以外の研修(担当教科や校務執行その他の一般教養等の広範囲にわたる研修)にも従事していたのであるから、同被告が研修をしていなかったということはできない。

一〇  亡中村佑二訴訟承継人被告中村らを除くその余の被告らの本案の主張

1  全事件について

原告は、亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら及び亡矢萩文雄訴訟承継人被告矢萩らを除くその余の被告ら(以下、本項において「被告ら」という。)が、いわゆるクラブ活動・補講期間、持ち時間のない日、試験又は学校行事の日等において、出勤せず、遅出若しくは早帰りをし、又は勤務時間中に職場会等に参加したと主張する。しかしながら、原告のいうところによっても、その主張は、具体的な現認に基づくものではなく、被告らの慣行、行動パターンなるものに基づいた機械的、画一的なものというのであって、それには具体的裏付けが全く存在しない。またそもそも、右の慣行、行動パターンなるものはその内容自体珍妙なものであり、原告の個人的な思込みに過ぎないものであって、その主張の根拠となるものではない。

そして、右主張は、機械的、画一的なものであるから、当然事実に反するものであり、そのうちには、公的な資料、記録の上から明白な誤謬が多々含まれている。

2  甲事件の請求の原因3(支出の違法)について

(一) 同(一)(給料等支給の違法)について

被告らは、勤務をしなかったとして原告の主張する日及び時間において、各出勤簿に記載のとおり勤務していた。

被告らが登校後一旦校外に出掛け、若しくは職員室内におらず、又は原告において姿を見掛けることがなかったとしても、そのことによって直ちに被告らが勤務をしていなかったといえるものではない。

ごく一部に、被告らが、偶々自宅で採点をしたり、校外で生徒の家庭や職場を訪問するなどの指導に当たっていたりしたために登校せず、又は遅出若しくは早帰りをしたことがあったとしても、それは極めて例外的なことであり、しかも採点、指導等の本来の職務の処理に当たっていたのであるから、これによって何ら損害は発生していない。

(二) 同(二)(定時制通信教育勤務手当支給の違法)について

被告後藤、被告佐藤及び被告饒村は、出勤簿への押印が若干遅れたことはあるものの、被告後藤において昭和五八年八月一九日に、被告佐藤において同月一一日及び同月一八日に、被告饒村において同月一二日に、それぞれ登校して勤務をしていることが、各出勤簿の記載等から明らかである。

(三) 同(三)(通勤手当支給の違法)について

被告平林は、昭和五八年八月八日ころ及び同月二三日ころ登校して勤務をした(その日が同月八日及び二三日であるかどうかは必ずしも明確でないため、場合によっては定時制通信教育手当の支給の要件を欠いていた虞があったので、同被告は任意に同月分の同手当はこれを返還したが、右両日ころ勤務したこと自体は間違いないのであるから、同月分の通勤手当の支給要件に欠けるところはない。)。

3  乙事件の請求の原因3(支出の違法)(二)について

(一) 職員団体の活動をしたとの点について

職場会は、休憩時間中のごく短時間に行われるものであり、校内委員会は行為制限条例に基づく適法な活動であるから、被告らがこれらに参加したことをもって勤務をしなかったとされるものではない。また、職場会及び校内委員会への被告らの参加状況は区々であったから、これらが開催されたからといって、被告らのすべてがこれらに参加したと認めることはできない。

(二) 研修をしなかったとの点について

(1) 教育公務員の研修については、その職務及び責任の特殊性に基づき、教育公務員特例法が特別の規定をおいている。すなわち、児童、生徒を教育するに際しては、単に知識、技術が伝達されれば足りるというものではなく、児童、生徒との人格的な触合いといったことが必要となるのであり、これに携わる教員には、一般公務員以上にその資質を向上させ、教科に関わる事柄のみならず、広く文化的、社会的教養を身に付けることが要請されるのであって、教育公務員の研修は、一般公務員のそれが勤務能率の発揮、増進を目的とするのに対比して特殊性を有する。かかる見地から、同法は、その特殊性を法的にも承認し、特に規定を設けたものである。したがって、教員の研修においては、教科の内容に限らず、クラブ活動指導のため、更には文化的、社会的教養を身につけるために、研修、修養をすることが求められているというべきである。

(2) 被告柳田について

被告柳田は、研修においてバドミントンの練習や試合をしたことがあるが、これにつき予め学校長の承認を受けていたこと、同被告が当時校務分掌としてバドミントン部の顧問をしていたことからすれば、これは正当な研修である。そもそも同被告は、研修を承認された期間の大部分を右以外の教科、生徒指導に関する研修に充てており、バドミントンの練習は、僅かに水曜日の夜に約二時間程度行っていたに過ぎない。また、同被告は、研修の承認を受けた日及び時間において右以外の研修(担当教科や校務執行その他の一般教養等の広範囲にわたる研修)にも従事していたのであるから、同被告が研修をしていなかったということはできない。

(3) 被告佐藤について

被告佐藤が昭和五八年八月一九日、二〇日及び二二日ないし二七日に研修をしなかったとしても、同被告は、後日その旨を中村教頭に申し出て、右各日における研修の有給休暇への修正を受けたものである。しかも、右各日に研修をした場合と有給休暇を取得した場合とで同被告の受けるべき給料等の金額は異ならないから、同被告は東京都に損害を発生させていない。

4  丙事件の請求の原因3(支出の違法)について

(一) 同(一)(超過勤務手当支給の違法)について

被告宮本は、超過勤務をしなかったとして原告の主張する時間において、勤務時間をこえて勤務することを命じられ、現実に勤務時間をこえて勤務していた。

(二) 同(二)(給料等支給の違法)について

一般に、司書は、その職務が教育活動に深く関わり、また自己の責任において判断せざるを得ない領域も広い上、向丘高校定時制においては、同被告が唯一その職にあるため、時には他所へ赴くなどして不断の調査研究に努めることが必要であり、同被告は、生徒の登校していない日や時間にあっては、他の図書館や書店等において図書に関する情報を収集するなどの勤務をしていたものである。

一一  亡中村佑二訴訟承継人被告中村らを除くその余の被告らの本案の主張1(全事件について)に対する原告の反論

前記一(甲事件の請求の原因)3(支出の違法)(一)(給料等支給の違法)(2)、同(二)(定時制通信教育勤務手当支給の違法)(2)及び同(三)(通勤手当支給の違法)(2)、前記二(乙事件の請求の原因)3(支出の違法)(二)並びに前記三(丙事件の請求の原因)3(支出の違法)(一)(超過勤務手当支給の違法)(2)及び同(二)(給料等支給の違法)(2)のとおり、被告らが違法に給料等や各種手当の支給を受けていた事実は、いずれも都立高等学校定時制課程において今日なお横行している各種のやみ慣行の一環としてされたものである。

しかして、原告が本件において問題としているやみ慣行の存在が立証されれば、被告ら全員がこれに従った行動をとり、その結果給料等や各種手当の支給を受けるための要件を充足しなかったという推定が働くものというべく、これを覆すためには個々の被告において右やみ慣行に従わない行動をとったことを反証しなければならないものとすべきである。かかるやみ慣行の下においては、原告としてはこれによって給料等や各種手当の支給の要件を欠くに至る日数又は時間数のすべてを基礎として、給料等や各種手当に係る不当利得の返還を請求しても差支えないところであるが、一層の正確性を期すべく、敢えて原告の把握していた被告それぞれの行動パターンに従って減縮した限度で本訴請求をしているのである。

したがって、被告らは、事細かい点をあげつらいつつ自ら行動パターンなるものは存在しないとの主張をするが、被告らそれぞれに行動パターンがあることは原告がこれを立証しなければならないものではなく、右のとおり、被告らにおいて右やみ慣行に従わない行動をとったことの反証をすべきである。被告らにおいて偶々行動パターンとは異なった行動に出ることがあったとしても、それは、その日時に限ってやみ慣行に従わない行動をしたことの反証となるに過ぎず、他の日時においてやみ慣行に従わず、給料等や各種手当の支給を受けるための要件を充足したということまでの反証となるものではないというべきである。

第三  証拠関係 〈省略〉

理由

第一本件訴えの適否について

一本件訴えは、原告が、いずれも、東京都に代位して、違法な公金の支出についての不当利得の返還又は損害の賠償を、右支出に係る相手方であるとする被告らに対して求めるものであるところ、被告らは、本件訴えに前置された各監査請求は、いずれも請求の対象の特定を欠いて不適法であるから、これらを前提とする本件訴えは、いずれも不適法である旨の主張をするので、これにつき検討する。

地方自治法二四二条の定める住民監査請求の制度は、住民に対し、普通地方公共団体の執行機関又は職員による所定の具体的な財務会計上の行為又は怠る事実(以下「当該行為」という。)について、その監査と非違の防止及び是正の措置とを監査委員に請求する機能を付与したものであって、それを超えて、一定の期間にわたる当該行為を包括して、これを具体的に特定することなく、監査委員に監査を求めるなどの権能までを認めたものではないと解される。したがって、住民監査請求においては、対象とする当該行為を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要し、また、複数の当該行為について監査を求める場合には、当該行為の性質、目的等に照らしこれらを一体とみてその違法性又は不当性を判断することを相当とする場合を除き、各行為を他の行為と区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものというべく、監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載、監査請求人の提出したその他の資料等を綜合しても監査請求の対象が右の程度にまで具体的に摘示されていないと認められるときは、その監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法であり、これを経て同法二四二条の二第一項に基づき提起された住民訴訟も不適法となるというべきである。

以下、これを本件訴えに前置された各監査請求についてみる。

二甲事件の訴えに前置された各監査請求について

1  やみ手当監査請求

甲事件の請求の原因6(監査請求)の事実は当事者間に争いがない。また、〈書証番号略〉によれば、同監査請求に係る監査請求書には、「東京都立高等学校教職員のやみ手当に関する措置請求の要旨」との表題の下に、「請求の要旨」として、実勤務がない場合は規定上定時制通信教育勤務手当及び通勤手当を支給することができないとの規定があるため、向丘高校定時制においては長期休業に掛かる月及び長期休業期間中には実際に勤務しなくとも右規定に「引っかからない」ように出勤簿に押印するよう指導している旨記載され、「措置要求」として、「前記支給要件に欠けるものについて過去一年間に逆のぼり返還すること」と記載されていることが認められる。このことと前記の当事者間に争いのない事実とによれば、同監査請求は、昭和五八年四月一四日から一年間の期間における向丘高校定時制の教員に対する定時制通信教育勤務手当及び通勤手当の支給について、その中に長期休業期間中実際に勤務しなかったために支給の要件を欠くものがあり、これが違法であるとして、これによって東京都が被ったとする損害の回復を求める趣旨のものであることが認められる。そうすると、かかる各手当の支給が違法であるかどうかは、右各手当の支給に関する制度の建前上、支給を受けた個別の職員について、支給を受けた月毎に支給の要件を充足する事実がないかどうかを審査しなければこれを判断することができないものであるから、監査請求書に右の程度の記載しかされていないのでは、到底請求人が本訴において違法であるとする各手当の支給の全部について、その特定認識が可能となるような個別的、具体的な摘示がされているとはいい難く、監査請求の対象としてはその特定に欠けるものというほかはない。

もっとも、前掲〈書証番号略〉には、「昭和五八年八月の平林教諭(別紙申立書ロ)に対する指導は別紙の通りです」「佐藤教諭の八月一八日は私が電話で出勤を確認した処、『良く憶えていないが多分、出勤していなかったと思う』とのことでした」「その他にも後藤教諭の八月一九日、饒村教諭の八月一二日、も私が昭和五八年九月一九日から二〇日の午後に見たときは押印がありませんでした」「出勤簿整理担当の吉野主査が七月初め〜九月二〇日の出勤簿の整理をしたのは九月二一日でした。翌九月二二日に私が出勤簿を見たときには既に後藤教諭、饒村教諭、共に押印がありました」との記載があり、右にいう別紙申立書ロである〈書証番号略〉(原告本人尋問の結果により成立を認め得る。)には、原告が出勤簿の整理をした際、被告平林については七月二一日から八月三一日まで、被告饒村については同月一二日、被告後藤については同月一九日に押印がなかったためこのままでは同月分の定時制通信教育勤務手当を戻入する必要があると思った旨の原告の供述記載がある。これら同監査請求に際し提出された事実を証する書面の記載に、右に認定した同監査請求の趣旨を綜合すれば、同監査請求においては、被告後藤、被告佐藤及び被告饒村に対する昭和五八年八月分の各定時制通信教育勤務手当の支給並びに被告平林に対する同月分の通勤手当の支給は、その要件を欠くにもかかわらずされたものであることが指摘されているのであって、右各被告らについての定時制通信教育勤務手当の支給及び通勤手当の支給に限っては、同監査請求の対象として、財務会計上の他の行為又は事実から区別して特定認識され得る程度に個別的、具体的に摘示されているというに足りる。

2  やみ休暇監査請求

前記1の争いのない甲事件の請求の原因6(監査請求)の事実及び原本の存在と成立に争いのない〈書証番号略〉によれば、同監査請求に係る監査請求書には、「試験休み中の教職員のやみ休暇に関する措置請求の要旨」との表題の下に、「請求の要旨」として、向丘高校定時制においては、九月、一二月及び三月の各定期試験の数日間並びに七月の夏期休業前の数日間を授業を行わないいわゆる「試験休み」(クラブ活動期間)とし、この期間中は勤務を要する日であり、自宅研修も許可されていないにもかかわらず、教員と司書にとっては「自由出勤の日」となっており、そのため出勤する教員もいるが一日も出勤しない教員もいる旨、「当方」の記録によると昭和五八年一二月一五日から同月一九日までの期間に実際に出勤した教員及びその勤務した時間は別紙(右監査請求書添付原告作成書面)のとおりである旨記載され、「措置要求」として、「前記の事実は学校職員の勤務時間、休日、休暇に関する条例を初め、すべての勤務条例に違反する上、学校職員の給与に関する条例にある“ノーワーク・ノーペイ”の原則に違反であるので、一年前に逆のぼって給与の返還を求めます」と記載されていること、右監査請求書には、右にいう別紙として同月一五日に給料等を受領した職員の氏名及びその受領時刻等並びに同月一六日、一七日及び一九日に出勤した職員の氏名等をそれぞれ記載した原告作成の各書面が添付されて提出されたことが認められる。このことと前記の当事者間に争いのない事実とによれば、同監査請求は、昭和五八年四月一四日から一年間の期間における向丘高校定時制の教員及び司書に対する給料等の支給について、その中にそのいうところの試験休み期間中実際には勤務をしなかったために支給の要件を欠くものがあり、これが違法であるとして、これによって東京都が被ったとする損害の回復を求める趣旨のものであることが認められる。そうすると、かかる給料等の支給が違法であるかどうかは、給料等の支給に関する制度の建前上、支給を受けた個別の職員について、支給を受けた月毎に支給の要件を充足する事実がないかどうかを審査しなければこれを判断することができないものであるところ、右認定のような監査請求の記載にその添付書類の記載を併せてみても、向丘高校定時制の教員及び司書に対する昭和五八年九月分、同年一二月分及び昭和五九年三月分の各給料等の支給を問題とする趣旨は窺われるものの、複数の右教員及び司書のうちいずれが右各月において勤務をしなかったにもかかわらずこれに係る減額をしない給料等の支給を受けたのかを知ることはできない。右認定の同年一二月一六日、一七日及び一九日の状況に関する各書面の記載についても、これはそこに言及された職員についてそれぞれの出勤状況ないし出勤時刻又は退庁時刻等を指摘するに止まるものというほかはない。原告は、右各書面をもって、向丘高校定時制に当時在職した教員及び司書のうちそこに出勤時刻等を記載した職員以外の者についてその全員が右各日に勤務をしなかったという事実を指摘するとの趣旨に出たとするものであるとも解し得ないではないが、右監査請求書及びその添付資料に向丘高校定時制に当時在職した教員及び司書の全員が摘示されておらず、右記載によっても具体的にそのいずれの者がその主張の日に出勤しなかったというのかを読み取ることはできないといわざるを得ないから、右各書面によってそこに出勤時刻等を指摘した職員を除くその余の者の行為を特定して認識することができるということもできない。したがって、監査請求書及びその添付資料の右に認定した程度の記載をもってしては、到底請求人が違法であるとする各給料の支給について、その特定認識が可能となるような個別的、具体的な指摘がされているとはいい難く、監査請求の対象としてはその特定に欠けるものというほかはない。

3  そうすると、甲事件の訴えのうち、被告後藤、被告佐藤及び被告饒村に対し、昭和五八年八月分の各定時制通信教育勤務手当に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める訴えの部分並びに被告平林に対し同月分の通勤手当に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める訴えの部分は、いずれも適法な住民監査請求を経たということができるが、その余の部分の訴えはいずれもこれを経たとはいえないから、不適法である。

三乙事件の訴えに前置された各監査請求について

1  研修日監査請求

乙事件の請求の原因6(監査請求)の事実は当事者間に争いがない。また、原本の存在と成立に争いのない〈書証番号略〉によれば、同監査請求に係る監査請求書には、「研修日という名のやみ休暇に関する措置請求の要旨(東京都立向丘高校定時制教員及び司書)」との表題の下に、「請求の要旨」として、東京都立高等学校の教員には研修日及び研修時間が認められているところ、これらは、研修目的に教科との関係がないにもかかわらず認められている、病気欠勤、入院中にもかかわらず認められている、研修時間中に研修をしている様子がない、研修日を家族旅行等の私用に使っているなど、事実上単なる休みとなっている旨記載され、「措置請求」として、右のように「研修をしていないのだから一年前に逆のぼって給与の返還を求めます」等と記載されていることが認められる。この記載によれば、同監査請求は、東京都立高等学校の教員にはその認められた研修日及び研修時間において研修をしていない例が多いこと、そのような研修日及び研修時間に係る給料等の支給は違法であることを指摘し、これらの事柄を、なかんずく向丘高校定時制の教員について問題とする趣旨のものであることが認められる。そうすると、かかる給料等の支給が違法であるかどうかは、給料等の支給に関する制度の建前上、支給を受けた個別の職員について、支給を受けた月毎に支給の要件を充足する事実がないかどうかを審査しなければこれを判断することができないものであるところ、右のとおり、同監査請求は、東京都立高等学校の教員の研修について、それが正当に実行されていないことを一般的、抽象的に問題とした上、向丘高校定時制の教員について右研修が正当に行われていない例があり、そのような研修日等に係る給料等の支給は違法であると主張する趣旨が看取されるに過ぎないものであるから、到底原告が違法であるとする給料等の支給についてその特定認識が可能となるような個別的、具体的な摘示がされているとはいい得ず、その対象とする行為又は事実が特定されているものとはいうことはできない。

もっとも、成立に争いのない〈書証番号略〉(被告佐藤の昭和五八年度出勤簿)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記監査請求書に、同年八月一九日、二〇日及び二二日ないし二七日の各欄に「研修」の押印のされた右出勤簿を、同月一九日ないし三一日の各欄を一連の枠で囲んで表示した上事実を証する書面として添付して提出したことが認められ、この認定事実に、同様に事実を証する書面として前記監査請求書に添付されて提出されたことが認められる原本の存在と成立に争いのない〈書証番号略〉を併せてみれば、同監査請求においては、被告佐藤が右各日において研修をすべきこととされていたにもかかわらず、これをしなかったことが具体的に指摘されていると認められるから、これによれば、給料等の支給に関する制度の建前に照らし結局同被告に対する同年九月分の給料等を右各日に係る部分を減額しないで支給したことを具体的に特定し、これが違法であると主張しているとみることができ、同監査請求は、右の点に関する限り、その対象が個別的、具体的に摘示されているというに足りる。また、事実を証する書面として前記監査請求書に添付されて提出されたことが認められる原本の存在と成立に争いのない〈書証番号略〉(被告柳田の昭和五八年度の研修承認願写し)と、前記認定の同監査請求の趣旨とを併せると、同監査請求においては、同被告が右研修承認願に基づき承認を受けた研修日(毎週水曜日並びに春季休業日、開校記念日、夏季休業日、都民の日、冬季休業日及び春季休業日)に適法な研修をしなかったことが具体的に指摘されていると認められるから、これによれば、給料等の支給に関する制度の建前に照らし結局同被告に対する同年五月分ないし昭和五九年四月分の各給料等の右各日に係る部分につき、これを減額しないで支給したことを具体的に特定し、これが違法であると主張しているものとみることができ、同監査請求は、右の点に関しても、その対象が個別的、具体的に摘示されているとするのが相当である。

2  やみ慣行監査請求

前記1の当事者間に争いのない事実及び原本の存在と成立に争いのない〈書証番号略〉によれば、同監査請求に係る監査請求書には、「都立学校教職員のやみ慣行に関する措置要求の主旨(東京都立向丘高校定時制教員及び司書)」との表題の下に、「請求の要旨」として、東京都立高等学校には勤務条例に違反する以下のようなやみ慣行がある、すなわち、①自己の持ち時間に間に合うように出勤し、終われば退庁する、②試験期間中は、試験が終われば退庁し、試験監督の担当がなければ出勤せず、また、試験休み期間中も出勤しない、③労働組合の動員には授業の合間をみて応ずる、④勤務時間中に労働組合活動をする、⑤定時制においては、日中に出張若しくは研修をし、又は職務専念義務の免除がされると、これらが授業に間に合う時刻に終わっても出勤しない旨記載され、「措置要求」として、右のように「勤務をしていないのだから一年前に逆のぼって給与の返還を求めます」と記載されていることが認められる。この記載によれば、同監査請求は、東京都立高等学校にはそのいうところの各種のやみ慣行があって、その教員及び司書には勤務をすべき日又は時間において勤務をしていない例が多いこと、そのような日及び時間に係る給料の支給は違法であることを指摘し、これらの事柄を、なかんずく向丘高校定時制の教員及び司書について問題とする趣旨のものであることが認められる。そうすると、かかる給料等の支給が違法であるかどうかは、給料等の支給に関する制度の建前上、支給を受けた個別の職員について、支給を受けた月毎に支給の要件を充足する事実がないかどうかを審査しなければこれを判断することができないものであるところ、右のとおり、同監査請求は、東京都立高等学校の教員及び司書の勤務に関するいうところのやみ慣行や、これによる勤務の怠りを一般的、抽象的に問題とした上、向丘高校定時制の教員及び司書について右やみ慣行により勤務をすべき日又は時間において勤務をしていない例があり、そのような研修日等に係る給料等の支給は違法であると主張する趣旨が看取されるに過ぎないものであるから、到底原告が違法であるとする給料等の支給についてその特定認識が可能となるような個別的、具体的な摘示がされているとはいい得ず、その対象とする行為又は事実が特定されているものとはいうことはできない。右監査請求書に添付されて提出されたことが認められる〈書証番号略〉(個人別時間割)(亡中村佑二訴訟承継人被告中村らとの関係では成立に争いがなく、その余の被告らとの関係では、原告作成に係る表欄外下部書込部分については原告本人尋問の結果により成立が認められ、その余の部分については成立に争いがない。)には、当時の向丘高校の多数の教諭の一週間の時間割の中に、被告大和田、被告増田、被告後藤及び被告高柳について、その各時間割の水曜日第三時限の欄に「」の表示がされ、その表欄外下部にはこれが都高教組向丘定時制分会の校内委員会の時間を示すものである旨の原告の書込みのあることが認められ、これによれば、職員組合の校内委員会が毎週水曜日の第三時限に開かれ、右各被告がこれに参加していることが窺われるが、右の表示は、これに表欄外下部の原告の書込みを併せてみても、時間割表という文書の性質からして他の時限における授業の担当等の多数の事項とともに渾然と表示された一覧表の記載の一部分を出るものではないから、偶々右のようにこの表示等から校内委員会の開催及び右各被告のこれへの参加という事実が窺われることとなるとしても、これをもって、監査請求を行った者が、右事実、ひいて右各被告に対する各給料等の支給のうちの右時限に係る部分を監査請求の対象として他の事項から区別して認識し得るように特定して摘示したものと理解することは困難であるというほかはない。ほかに、右認定の監査請求書の記載にその余の添付書類等を併せても、同監査請求は、その対象とする行為又は事実が特定されているものということができない。

3  そうすると、乙事件の訴えのうち、研修日監査請求中被告佐藤に対する同年九月分の給料等を同年八月一九日、二〇日及び二二日ないし二七日に係る部分を減額しないで支給したこと並びに被告柳田に対する同年五月分ないし昭和五九年四月分の各給料等を前記1の研修日(毎週水曜日並びに春季休業日、開校記念日、夏季休業日、都民の日、冬季休業日及び春季休業日)に係る部分を減額しないで支給したことを違法とする訴えの部分、すなわち、被告佐藤ちさに対し金六万二〇六八円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告柳田直規に対し金一五四万八〇三七円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める各請求に係る訴えの部分は、いずれも適法な住民監査請求を経たものということができるが、その余の部分の訴えはいずれもこれを経たとはいえないから、不適法である。

四丙事件の訴えに前置された各監査請求について

1  事務職員監査請求

丙事件の請求の原因6(監査請求)の事実は当事者間に争いがない。また、原本の存在と成立に争いのない〈書証番号略〉によれば、同監査請求に係る監査請求書には、「都立学校司書は教育職か事務職員か?に関する措置請求の主旨」との表題の下に、「請求の主旨」として、都立学校には行政職の事務職員である司書が配置されているところ、東京都高等学校教職員組合(都高教組)では司書を教育職と位置付けているため、法的根拠がないにもかかわらず研修日を与えられている旨、向丘高校の場合昭和五六年一二月以降は出張又はやみ休暇によってこれを行っている旨記載され、「措置要求」として、「司書には教特法第一九条及び二〇条の適用はなく、従って勤務をしていない時間及び日について、一年前に逆のぼって、給与の返還を求めます」等と記載されていることが認められる。このことと前記の当事者間に争いのない事実とによれば、同監査請求は、昭和五八年七月七日から一年間の期間における向丘高校の司書に対する給料等の支給について、その中に研修と称して勤務をしなかったために支給の要件を欠く部分があり、これが違法であるとして、これによって東京都が被ったとする損害の回復を求める趣旨のものであることが認められる。そうすると、かかる給料等の支給が違法であるかどうかは、給料等の支給に関する制度の建前上、支給を受けた個別の司書について支給を受けた月毎に支給の要件を充足する事実がないかどうかを審査しなければこれを判断することができないものであるから、監査請求書の右に認定した程度の記載をもってしては、到底原告が違法であるとする給料等の支給の全部について、その特定認識が可能となるような個別的、具体的な摘示がされているとはいい難く、監査請求の対象としてはその特定に欠けるものというほかはない。

もっとも、前掲〈書証番号略〉には、「昭和五八年一二月二二日〜同五九年一月七日の定時制司書の勤務実態は別紙申立書A及びBのとおりです」との記載があり、右にいう別紙申立書Aである〈書証番号略〉(原告本人尋問の結果により成立を認め得る。)には、昭和五八年一二月二二日から昭和五九年一月七日までの期間における被告宮本の勤務状況について、昭和五八年一二月二二日、二三日、二六日ないし二八日及び昭和五九年一月四日ないし六日は欠勤である旨の原告の供述記載がある。これら同監査請求に際し提出された事実を証する書面の記載に、右に認定した同監査請求の趣旨を併せてみれば、同監査請求においては、同被告が右各日に勤務をしなかったことが具体的に指摘されていると認められるから、これによれば、給料等の支給に関する制度の建前に照らし結局同被告に対する同月分及び同年二月分の各給料等を右各日に係る部分を減額しないで支給したことを具体的に特定し、これが違法であると主張しているものとみることができ、同監査請求は、右の点に関する限り、その対象が個別的、具体的に摘示されているというに足りる。

2  超過勤務監査請求

前記1の争いのない丙事件の請求の原因6(監査請求)の事実及び原本の存在と成立に争いのない〈書証番号略〉によれば、同監査請求に係る監査請求書には、「都立学校事務職員の超勤手当のカラ支給に関する措置請求の主旨(東京都立向丘高等学校定時制事務職員等)」との表題の下に、「請求の要旨」として、向丘高校定時制における事務職員に対する超過勤務手当の支給について、「予算で均等割に支給をしているもので超過勤務を実際にやっても、やらなくてももらえるものとなっています」「このため事務長などは自分の予算を越えて超過勤務をしているのに、その実額すらも保証されていない人もあります」と記載され、「措置要求」として、「職員の及び学校職員の給与条例にあるノーワーク・ノーペイの原則に立ち、働らいていない超過勤務手当について、一年前に逆のぼり返還すること」と記載されていること、右監査請求書には、被告宮本ほか六名の職員の昭和五八年八月分の各超過勤務命令簿写し等の書類が事実を証する書面として添付されて提出されたことが認められる。このことと前記の当事者間に争いのない事実とによれば、同監査請求は、昭和五八年七月七日から一年間の期間における向丘高校定時制の事務職員に対する超過勤務手当の支給について、その中に実際には正規の勤務時間をこえて勤務をした事実がなかったために支給の要件を欠くものがあり、これが違法であるとして、これによって東京都が被ったとする損害の回復を求める趣旨のものであることが認められる。そうすると、かかる超過勤務の支給が違法であるかどうかは、右手当の支給に関する制度の建前上、支給を受けた個別の職員について、支給を受けた月毎に支給の要件を充足する事実がないかどうかを審査しなければこれを判断することができないものであるところ、同監査請求において対象とされたものが何であるかについては右認定のような監査請求書の記載にその添付書類の記載を併せてみても、向丘高校定時制の事務職員に対する右一年間の期間の右各手当の支給、なかんずく右被告宮本ほか六名の職員に対する昭和五八年九月分のそれを問題とするという趣旨が窺われるに止まるのである。原告が問題とする超過勤務手当支給の対象となった時間は、同監査請求における原告の主張自体からしても、その中に、右手当の支給の要件を充足するもの、すなわち実際に正規の勤務時間をこえて勤務をした事実が存在したものと、右要件を充足しないものとが混在しているということを前提としているものである。そうであるとすれば、同監査請求は、右各超過勤務命令簿の記載等によって問題とする超過勤務手当の支給全部についてその要件を欠くとして監査を求める趣旨のものではないのであるから、右のような前提に立つ以上、右各超過勤務命令簿の記載等によって超過勤務手当の支給を特定するのみではその対象を特定したということはできず、そのうちの違法であるとする部分、すなわち支給の要件を充足しないとする部分を具体的に指摘しなくてはならないものというべきである。したがって、監査請求書及びその添付資料の右に認定した程度の記載をもってしては、到底原告が違法であるとする各超過勤務手当の支給について、その特定認識が可能となるような個別的、具体的な摘示がされているとはいい難く、監査請求の対象としてはその特定に欠けるものというほかはない。

3  そうすると、丙事件の訴えのうち、事務職員監査請求中右1に判示した部分を経て提起された訴えの部分、すなわち、被告宮本に対し、昭和五九年一月分の給料等のうち昭和五八年一二月二二日及び二三日に係る部分を減額しなかったこと並びに昭和五九年二月分の給料等のうち同年一月五日及び六日に係る部分を減額しなかったことによる不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める訴えの部分は適法な住民監査請求を経たものということができるが、その余の部分の訴えはいずれもこれを経たとはいえないから、不適法である。

五被告らは、本件各監査請求は、個々の支出の日時、支出金額、支出先、支出目的等が明らかにされていないから、監査請求の対象とされた公金の支出が、他の支出と区別して特定認識され得る程度に個別的、具体的に摘示されているとはいえず、その対象の特定を欠く旨の主張をする。しかしながら、住民監査請求の対象とする当該行為を個別的、具体的に摘示するに当たっては、当該行為の特徴を示す事実を明らかにする必要があることは当然の事理であるが、右にいう当該行為の特徴を示す事実は、これによって当該行為を他の行為から区別して特定認識することが可能となるようなものであれば足り、当該行為が公金の支出であっても、必ずしも被告らの挙げるような事柄のすべてを明らかにしてこれを特定することを要するものではないというべきである。したがって、右主張はその前提において採ることを得ない。

第二本訴請求について

一本訴請求については、以下に判示するとおり、被告らに対する給料等及び各種手当の支給を違法とするに足りる事実、いい換えると、問題とされる給料等がその支給の要件を欠くという事実及び問題とされる各種手当が支給されなくなるに至る事由に該当する事実の存否が争われているところ、かかる事実は、後にみるような給料等及び各種手当の支給に関する条例等の定める要件に関する積極的又は消極的な事実であるから、本件において存否が問題となるのは、各個の職員が特定の日に勤務をしたかどうか、その出勤、退勤の時刻はどうであったかといった個別的、具体的な事実ということとなる。そのような個別的、具体的な事実は、原則としてそれぞれに対応する個別的な証拠又は間接事実があるときに限り、これらに基づいて認定することができるものであることはいうまでもない。原告は、本件において問題としているやみ慣行の存在が立証されれば、被告ら全員がこれに従った行動をとり、その結果給料等や各種手当の支給を受けるための要件を充足しなかったという推定が働き、これを覆すためには個々の被告において右やみ慣行に従わない行動をとったことを反証しなければならないものとすべきである旨の主張をするが、その主張するやみ慣行も、その対象となる日又は時間帯に、職員が登庁しなくとも、賃金カットの原因とされないというに止まるものであって、その日又は時間帯に職員が登庁して勤務することを禁ずるものではないというのであり、学校も、その間職員が登庁すれば執務をすることのできる態勢にあったものであろう。そうすると、職員が、そのような慣行の存在にかかわらず、自分の仕事の都合等の事情で、その対象となる日又は時間帯に登庁し、職務を遂行することも大いにあり得るところと考えられるのであって、向丘高校定時制に勤務する教諭等が、やみ慣行によれば勤務を要しないとされている日又は時間帯に、およそ勤務しないと推定して差支えない程度に、これら慣行に従っていたというような事実を認めるべき証拠はないのである。ことに原告のいうところのやみ慣行は、その主張によれば違法な行為にほかならず、学校職員の服務の本来の在り方からはかけ離れているというのであるから、これが恒常化していることがあったとしても、都立の高等学校の教諭という地位にある被告らによって服務の本来の在り方に副った勤務、すなわち給料等又は各種手当の支給の要件を満たす勤務も一方においてされることのあり得ることを見込まざるを得ないのであって、原告のいうようなやみ慣行の存在が認められば、前記の問題とされる給料等がその支給の要件を欠くという事実又は問題とされる各種手当が支給されなくなるに至る事由に該当する事実が認められるとか、かかる事実が事実上推定されるとかいうことはできない。原告はまた、被告らそれぞれに行動パターンがあることは原告がこれを立証しなければならないものではないなどとも主張するが、右に判示したとおり、もともと行動パターンというようなものの存在によって直ちに右のような事実を認め、又はこれを否定するということはできないのであるから、右主張はその前提において既に失当であり、これまた採用の限りでない。

二甲事件の請求について

1 以下、甲事件の訴えのうち前記第一の二に判示したとおり適法な部分の訴えに係る請求、すなわち、被告後藤、被告佐藤及び被告饒村に対し昭和五八年八月分の各定時制通信教育勤務手当に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求めるもの、被告平林に対し同月分の通勤手当に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求めるもの並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら各自に対し被告平林に支給された右通勤手当に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるものの当否について判断する。

2  甲事件の請求の原因1(当事者)、2(公金の支出)(二)(定時制通信教育勤務手当の支給)及び同(三)(通勤手当の支給)の各事実は当事者間に争いがない。

3  甲事件の請求の原因3(支出の違法)(二)(定時制通信教育勤務手当支給の違法)について

(一) 学校職員の給与に関する条例一五条の四第一項(昭和六一年条例第一三二号による改正前のもの)によれば、都立の高等学校で、本務として定時制の課程で行う教育に従事する教諭には定時制通信教育勤務手当を支給するものとされている。定時制通信教育勤務手当は、その月分を翌月中に支給するが(定時制通信教育勤務手当支給に関する規則五条)、月の一日から末日までの間において引続き一六日以上、出張中の場合(同規則四条一号)、研修中の場合(同条二号)又は勤務しなかった場合(同条三号)の一に該当するときはこれを支給しないものとされている。

(二)(1) そこで、原告の主張するように、被告後藤、被告佐藤及び被告饒村が、それぞれ昭和五八年八月一日から末日までの間において引続き一六日以上右1の各場合の一に該当していたかどうかについてみるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、右各被告は、同月において、被告後藤については同月四日、五日、一九日、三〇日及び三一日を除くその余の日(休日をも除く。以下同じ)、被告佐藤については同月一一日及び一八日を除くその余の日、被告饒村については同月一二日及び二二日を除くその余の日には、いずれも研修中若しくは出張中、又は休暇の事由により勤務しなかったが、被告後藤は同月四日、五日、三〇日及び三一日に、被告佐藤は同月一一日及び一八日に、被告饒村については同月二二日に、いずれも勤務をしたことが認められるから、右各被告が、同月一日から末日までの間において引続き一六日以上右1の各場合の一に該当していたかどうかは、被告後藤については同月一九日に、被告佐藤については同月一八日に、被告饒村については同月一二日に、それぞれ研修中若しくは出張中であり、又は休暇により勤務をしなかったかどうかにかかることとなる。

(2) しかるところ、以下のとおり、本件全証拠によっても、右各被告が右各日に研修中若しくは出張中であり、又は休暇により勤務をしなかったことは、これを認めるに足りない。

まず、原告は、向丘高校定時制に勤務する事務職員であるところ、右各日においては、入院療養中であって出勤しておらず、同高校内で勤務の傍ら右各被告がそれぞれ勤務をしていないことを確かめるなどのことをしたわけではないことは、その本人尋問において自認するところである。その余の各証拠をみても、右各被告が右各日に研修中若しくは出張中であり、又は休暇により勤務をしなかったとの原告の主張事実を直接認めるに足りるものはない。

次に、前掲〈書証番号略〉(右各被告の出勤簿)には、被告後藤については同年八月一九日に、被告佐藤については同月一八日に、被告饒村については同月一二日に、それぞれ出勤したことを示す押印があるが、これらの押印については、前掲〈書証番号略〉、被告佐藤及び被告饒村の各本人尋問の結果により成立を認め得る〈書証番号略〉、原告本人尋問の結果により成立を認め得る〈書証番号略〉、右各尋問結果並びに被告後藤本人尋問の結果によれば、右各日の当日ではなく、後日にされたものと認められる(しかしながら、原告の尋問結果及び日記の記載(〈書証番号略〉)中、右が同年九月二一日に出勤簿の整理がされた際に押捺されたものである旨の部分は、右尋問結果自体によって、同月一八日又は一九日に原告が出勤簿を見たときには押印がなかったこと、同月二一日には右各被告が出勤していたこと等に依拠して推測したところを述べたものであることが明らかであり、しかも、右の同月一八日又は一九日に原告が出勤簿を見たときには押印がなかったとの点については客観的な裏付けがないのはもとより右原告の日記にもそのような記載があるかどうか不明なのであるから、これを採用することはできず、他に右各押印のされた時期を認めるべき的確な証拠はない。)。

ところで、東京都公立学校職員出勤簿整理規程(昭和三六年九月五日教育委員会訓令甲第一八号。昭和六一年教育委員会訓令第八号による改正前のもの)によれば、都立学校に勤務する職員の出勤簿の整理は、事務室長又は事務長がこれを行うものとされている(同規程一条、二条)。そして、出勤簿整理者である事務室長又は事務長は、毎日出勤時限後、出勤簿を点検し、押印のないものについて別表に定める区分に従い相当の表示をしなければならず(同規程四条一項)、忘却のため押印することができない職員に関しては、届け出により当日以後に押印させることができるものとされている(同条二項)。右届け出は原則として書面等をもって速やかに整理者にこれを送達しなければならず(同規程六条)、また、出勤簿整理者は、右の届け出理由等に関し、整理上必要な書類を提出させることができるものとされている(同規程九条)。職員は、出勤簿の押印については、予め整理者に届け出た印を使用し、朱又は類似の色をもってしなければならないものとされている(同規程三条)。以上の規程によれば、右職員は、出勤時限までに出勤して勤務をするときには、出勤時限までに出勤簿に押印をすべきものであり、出勤簿整理者は、出勤時限までに押印がされていない場合には、事実を調査してそれが同規程別表事由欄のいずれの事由によるものかを判定し、その結果を出勤簿に明示すべきものとされているのであって、出勤簿は、勤務をする当の職員が自ら日々記録をするとともに、これと勤務場所を同じくする出勤簿整理者が把握した事実に基づき日々整理をすることとされているのであって、そのことに、そもそも出勤簿が、給料等の支給を初めとする、職員の諸般の人事上の利益又は不利益の措置について、その要件となり、又は考慮の対象とされるところの職員の出退勤や休暇に関する事実を証明すべき公の記録であることを併せ考えると、少なくとも勤務をする個々の職員が、自ら日々又は当日以後のこれと近接した日において、押印、記録をしている限り、その証明力は高いものといわなくてはならない。

もっとも、前記各押印は、右に判示したとおり、それぞれの日又はこれと近接した日にされたものとは認めることができないのであるから、前記各被告が前記各日に出勤したかどうかという点に関する関係では、前記各出勤簿の記載に右に判示したような高度の証明力を認めることはできないことになる。しかしながら、出勤簿への押印が当日又はこれと近接した日とはいえない時期にされたことが認められても、右に判示したとおり東京都公立学校職員出勤簿整理規程自体が当日以後の押印を適法なものとして許容すべき場合があることを前提としていることなどにかんがみれば、そのことから直ちに押印に係る日にその職員が勤務をしなかった事実を認め得るということもできない。そこで更に他の証拠をみると、前記各押印がそれぞれの当日又はこれと近接した日とはいえない時期にされたという事実と相俟って各日に各被告が勤務をしなかったと認めるに足りるような客観的な証拠は存しないばかりか、かえって、前記各被告は、その各本人尋問及び各陳述書(前掲〈書証番号略〉並びに被告後藤本人尋問の結果により成立を認め得る〈書証番号略〉)において、それぞれ原告が問題とする日に自己が勤務をしたことを述べており、更に、右各尋問結果及び供述記載の中には、実習教員が他にいなかったことから生物実験用に飼育していた魚介類の管理、給餌をするために出勤したとか(被告後藤)、昭和五八年八月一八日には教材等の整備、校務分掌上の書類の整備及び私物の撤去をするため出勤したが、そのためか翌日切迫流産の危険がある旨の診断を受けたとか(被告佐藤)といった当時の記憶の正確性を担保するような事由に支えられたものもある。右の点を考慮すると、前記各押印がそれぞれの日又はこれと近接した日にされたものとは認めることができないからといってそれぞれの日に前記各被告が勤務をしなかったとまでは認めるに足りないものというべきである。

原告は、以上のほか、昭和五八年八月の他の日の出勤状況と対比するなどして右各被告が右各日に勤務したとすることの不自然さをいうが、いずれも確たる証拠のない憶測の域を出るものでなく、採用の限りでない。

(3)  そうすると、前記1の請求のうち、被告後藤、被告佐藤及び被告饒村に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰する。

4  甲事件の請求の原因3(支出の違法)(三)(通勤手当支給の違法)について

(一) 学校職員の給与に関する条例一四条(昭和五九年条例第二号による改正前のもの)は、学校職員で同条一項各号に掲げるものに通勤手当を支給するものとしている。通勤手当は、その月分を当月中に支給するが(通勤手当支給規程(昭和三三年八月一二日教育委員会訓令甲第七号。昭和六〇年四月一日教育委員会訓令第七号による改正前のもの)八条本文、学校職員の給与に関する条例九条)、職員が出張、休暇、欠勤その他の事由により月の一日から末日までの全日数にわたって通勤しないこととなるときは、これを支給しないものとされている。

(二)(1) そこで、原告の主張するように、被告平林が、昭和五八年八月一日から末日までの全日数にわたって通勤しなかったかどうかについてみるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、同被告は、同月において、同月八日及び二三日を除くその余の日(休日をも除く。)には出張、休暇、欠勤その他の事由により通勤しなかったことが認められる。

(2) しかして、以下のとおり、本件全証拠によっても、同被告が右両日に出張、休暇、欠勤その他の事由により通勤しなかったことは、これを認めるに足りない。

まず、原告は、前記(二)(2)と同様に、右両日においては、入院療養中であって出勤しておらず、同高校内で勤務の傍ら同被告が出勤していないことを確かめるなどのことをしたわけではないことは、その本人尋問において自認するところである。その余の各証拠をみても、同被告が右両日に出張、休暇、欠勤その他の事由により通勤しなかったとの原告の主張事実を直接認めるに足りるものはない。

次に、前掲〈書証番号略〉(同被告の出勤簿)には、右両日に出勤したことを示す押印があるが、この押印については、同被告本人尋問の結果により成立を認め得る〈書証番号略〉、証人船津宏の証言及び右尋問結果に加え、前掲〈書証番号略〉と成立に争いのない〈書証番号略〉とを対比してみると、当初はいずれも研修の表示がされていたところ、同年一〇月半ばころに至りこれを抹消した上で出勤を示す押印がされたものであることが認められる。

しかして、都立学校職員の出勤簿の記載の証明力については先に判示したように一般的には高いものというべきであるところ、右に認定したとおり、右各押印は、それぞれの日から約二か月を経過した後にされたものと認められるのであるから、同被告が右両日に出勤したかどうかという点に関する関係では、前記出勤簿の記載に、高度の証明力を見出すことはできないというべきである。

しかしながら、出勤簿への押印が当日又はこれと近接した日とはいえない時期にされたことが認められても、そのことから直ちに押印に係る日にその職員が勤務をしなかった事実を認め得るとはいえないこと前判示のとおりである。そこで進んで、右認定のとおり一旦研修の表示がされ、更にこれが抹消された後出勤の押印がされるに至った経緯等についてみると、前掲〈書証番号略〉、証人船津宏の証言並びに同被告及び原告の各本人尋問の結果によれば、同年七月ころ事務担当者において右出勤簿の夏期休業中の研修の承認のされた日の欄に一律に研修の表示をしたが、同年一〇月半ばに教頭である中村が、夏期休業中の出勤状況について訊ねたところ、同被告が、はっきりした日は分からないが右両日ころの各一日以上出勤した旨を申し出たので、これに基づいて右研修の表示が抹消され、その上に出勤の押印がされたことが認められる。かかる経緯に、同被告は、その本人尋問及び陳述書(〈書証番号略〉)において、右両日に出勤したと述べていること、その根拠として同被告の挙げるところは、同年八月初めころまでに同高校全日制の給与事務担当者に対し同月二三日に登校するつもりであるからその日に給料等を受け取りたい旨を告げた、同被告は例年他の諸事務が少ない八月を教材研究に充てており、同年八月は化学系の教材研究(主として模擬実験のための基礎検討等)をするために、右両日ころ出勤した記憶であるというのであって、それなりに当時の記憶の正確性を担保するような事由に支えられていることを併せ考えると、前記押印は右両日から約二か月を経てされたものであることは、右に認定したとおりであるが、そうであるからといって右両日に同被告が出張、休暇、欠勤その他の事由により通勤しなかったとまでは認めるに足りないものというべきである。

同被告本人尋問の結果により成立を認め得る〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、同被告は、同月分の給料等を同年九月一日に受領することを希望していたことが認められるが、右尋問結果によれば、同被告が右給与事務担当者に対し同年八月二三日に登校するつもりであるからその日に給料等を受け取りたい旨を告げたところ、右給与事務担当者が、もし出勤できない場合にこれを保管しておくのはまずいとしてこれを断ったため、結局同年九月一日に同年八月分の給料等を受領することとなったに過ぎないことが認められるから、右認定事実によっても、同被告が右両日に出勤したとする記憶についてその正確性を担保する事由があるとする右の判断が左右されるものではない。

原告本人尋問の結果中には、同被告は、毎年八月には全く出勤しないという慣行、習慣があるから、右両日にも出勤していないと認めるべきであるとの供述部分があるが、およそ個人についてそのような確定的な慣行、習慣を認めることは事柄の性質上できないし、これらの慣行や習慣といったものによって同被告が右両日に出勤しなかったというような個別的な事実を認めるに由ないことは、前判示のとおりであって、右供述部分はこれを採用することができない。

(3)  そうすると、前記一の請求のうち、亡中村佑二訴訟承継人被告中村ら及び被告平林に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰する。

三乙事件の請求について

1 以下、乙事件の訴えのうち前記第一の三に判示したとおり適法な部分の訴えに係る請求、すなわち、被告佐藤に対し昭和五八年九月分の給料等に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求めるもの及び被告柳田に対し同年五月分ないし昭和五九年四月分の各給料等に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求めるもの並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し右各被告に支給された右各給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるものの当否について判断する。

2  乙事件の請求の原因1(当事者)及び2(公金の支出)の各事実は当事者間に争いがない。

3  乙事件の請求の原因3(支出の違法)について

(一) 学校職員の給与に関する条例一六条によれば、学校職員が勤務をしないときは、その勤務しないことにつき教育委員会の承認のあった場合を除くほか、その勤務をしない一時間につき、同条例二〇条に規定する勤務一時間当たりの給与額を減額して給与を支給するものとされている。給与の減額は、減額すべき事実のあった日の属する給与期間(月の一日から末日までの期間をいう。)のものを、その給与期間又は次の給与期間の給料支給の際にこれを行うものとされている(学校職員の給与に関する条例施行規則七条一項)。

(二) 被告佐藤について

(1) そこで、原告の主張するように、被告佐藤が昭和五八年八月一九日、二〇日及び二二日ないし二七日において、勤務を要するにもかかわらず、これをしなかったかどうかについてみる。

〈書証番号略〉によれば、同被告は、右各日において研修をするとして予め同高校の学校長の承認を受けていたことが認められ、この事実によれば、同被告について、右各日は研修をすべき日であって、勤務を要することとなるところである。

(2) その一方、右各証拠並びに前掲〈書証番号略〉、証人船津宏の証言及び同被告本人尋問の結果(後記措信し難い部分を除く。)によれば、同被告は、昭和五九年三月三一日向丘高校の学校長に対し、右各日は病気入院中であったため研修をすることができなかった旨を報告するとともに、右各日については年次休暇として処置して貰いたい旨を申し出たこと、そこで同高校の事務長において東京都教育庁にその取扱方につき照会をした上、その回答に従い、同被告の出勤簿(〈書証番号略〉)の欄外に「研修報告書による本人の申立に基づき八月一九日から八月二七日までの研修を年次休暇に訂正する。昭和五九年三月三一日、事務長船津宏」との記載をしたこと、以上の事実が認められ、同被告本人尋問の結果中、右申出の時期につき右認定に反する供述部分は、右出勤簿の欄外の記載や同被告が前掲〈書証番号略〉において自ら述べるところと齟齬するものであって措信し難い。

ところで、学校職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例一〇条によれば、年次休暇は、職員の請求する時季に与えるが、教育委員会は、職務に支障があるときは、他の時季に与えることができるものとされている。年次休暇を処理するための様式は、教育委員会が別に定めるものとされている(学校職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例施行規則(昭和三八年一二月二八日教育委員会規則第二八号。昭和五九年教育委員会規則第三二号による改正前のもの)一五条)。これらの規定によって右の認定事実をみると、同被告は、昭和五九年三月三一日に昭和五八年八月の右各日において年次休暇の請求をしたものとみるのが相当である。もっとも、右学校職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例施行規則の定める様式の点からみれば、右が所定の様式を遵守したものであるかどうかはこれを認める的確な証拠がないものの、仮にその方式に違反する点があったとしても、それをもって年次休暇の請求としての効力に影響を及ぼすものとは認め難いから、この点によって右各日を年次休暇とすることが妨げられるものではない。

してみると、前記各日は、結局年次休暇として同被告については勤務を要する日ではないこととなったのであるから、これが勤務を要する日に当たることを前提とする原告の主張は失当である。原告本人尋問の結果中、右認定判断に反するかのような供述部分は、いずれもその見聞した範囲における教員の年次休暇の取扱いの先例について述べるか、又は右に判示したところと異なる独自の見解をいうかに過ぎないものというべく、採用することができない。

(3) そうすると、前記1の請求のうち、被告佐藤に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰する。また、亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対する請求中被告佐藤に支給された給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるものは、右給料等の支給が違法であることを前提とするものであるから、これも理由がないこととなる。

(三) 被告柳田について

(1) 被告柳田に対する請求及び亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対する請求のうち被告柳田に支給された各給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるものについて検討する。

(2) 右各給料等の支給のうち、昭和五八年八月一一日及び同年一〇月一日に係る部分を減額しないで支給したことについては、右各日は、それぞれ年次休暇及び都民の日であって、そもそも勤務を要する日に当たらない以上、これにつき予め研修の承認を受けていたとしても、そうであるからといって勤務(研修)をしなければならないことになるものではないから、原告の主張のうち、給料等の右各日に係る部分を減額しないで支給したことに関する部分は、この点において既に失当である。

(3)  原告が、被告柳田に対する給料等の支給を違法とするところの、同被告が研修の承認を受けていたにもかかわらずこれをしなかったとする事由は、要するに、同被告がバドミントン部顧問としての技術向上のための研修と称して、個人的にバドミントン社会人大会に出場することを目的とした練習に、研修すべき時間及び日を充てていたというにある。そこで、かかる事由が、研修の承認を受けていたにもかかわらずこれをしなかったというに足りる事由といえるかどうかについて検討するに、教育公務員特例法によれば、教育公務員は、その職責を遂行するために絶えず研究と修養に努めなければならず(同法一九条一項)、研修を受ける機会が与えられなければならないものとされ(同法二〇条一項)、更に、教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができるものとされている(同条二項)。これらの規定に、教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の特殊性に基づき教育公務員の研修等について定めるという同法の趣旨(同法一条)を併せ考えると、同法は、児童、生徒又は学生との全人的な関係に立ってその知徳の陶冶を図るべき教員の職責の特性を重視し、特に一般の公務員に比して自発的かつ自律的な研修の機会を保障することとしたものと解され、このことに、右のとおり同法一九条一項が教育公務員の努めるべきところとして「研究」と並び「修養」を挙げていることを綜合すると、これらの規定に基づく教員の研修については、これを行う個々の教員に、その内容及び方法に関して、右に判示したような同法の趣旨に従った一定の裁量権が付与されているものと解すべく、また、その内容は、必ずしも、当該教員が現に担任している教科や校務上分掌している事務に直接関連する事柄に限定されるものではないと解すべきである。かかる見地に立って、原告の主張する右事由をみると、その主張自体によっても、被告柳田は、特別活動としてのバドミントン部の顧問教諭であり、顧問教諭としての技術向上のための研修と称してバドミントンの練習をしているというのであるから、その研修の内容及び方法は、バドミントン部顧問教諭としての同被告の職務に照らし、優に研修に関する教員の裁量の範囲内にあるものというべきである。原告は、右の練習は、同被告が個人としてバドミントンの社会人大会に出場することを目標とするものであると批判するが、通常、運動競技の技倆を錬磨し、更に競技会に出場してその成果を競うことは、結局その競技の指導者としての資質、能力の向上をももたらすものであると考えられるから、仮に右練習の目的が原告の主張するようなものに尽きるとしても、そのことのゆえに、右練習が教員に付与された裁量の範囲を逸脱し、研修の名に値しないものとされるものではない。

したがって、同被告に対する給料等の支給を違法とする、同被告が研修の承認を受けていたにもかかわらずこれをしなかったとする事由として原告の主張するところは、その自体において失当である。

(4) そうすると、前記1の請求のうち、被告柳田に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰する。また、亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対する請求中被告柳田に支給された給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるものは、右給料等の支給が違法であることを前提とするものであるから、これも理由がないこととなる。

四丙事件の請求について

1 以下、丙事件の訴えのうち前記第一の四に示したとおり適法な部分の訴えに係る請求、すなわち、被告宮本に対し、昭和五九年一月分及び二月分の各給料等に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求めるもの並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し、被告宮本に支給された各給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるものの当否について判断する。

2  丙事件の請求の原因1(当事者)及び2(公金の支出)(二)の各事実は当事者間に争いがない。

3  丙事件の請求の原因3(支出の違法)(二)(給料等支給の違法)について

(一) 前記三3(一)に判示したとおり、学校職員が勤務をしないときは、その勤務しないことにつき教育委員会の承認のあった場合を除くほか、その勤務をしない一時間につき、所定の勤務一時間当たりの給与額を減額して給与を支給するものとされている。給与の減額は、減額すべき事実のあった日の属する給与期間のものを、その給与期間又は次の給与期間の給料支給の際にこれを行うものとされている。

(二)(1) そこで、原告の主張するように、被告宮本が、昭和五八年一二月二二日、二三日、昭和五九年一月五日及び六日において、勤務を要するにもかかわらず、これをしなかったかどうかについてみるに、成立に争いのない〈書証番号略〉、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、同被告にとって、右各日は勤務を要しない日とされていなかったことが認められる。

(2) しかして、以下のとおり、本件全証拠によっても、同被告が右各日に勤務をしなかったことは、これを認めるに足りない。

まず、〈書証番号略〉(原告作成の昭和五八年一二月に係る日誌)には、同月二二日の欄に「宮本欠」と、同月二四日の欄に「22日より宮本欠」とそれぞれ記載され、〈書証番号略〉(原告作成の昭和五九年一月に係る日誌)には、同月四日の欄と線で結んで「宮本ずーっと欠勤」と、同月五日及び六日の各欄に「宮欠」と記載されており、これらの記載は、これを通覧すれば、要するに同被告が昭和五八年一二月二二日から昭和五九年一月六日までの間出勤しなかったという趣旨に出たものと認められる。そして、原告は、その本人尋問及び申立書(〈書証番号略〉)において、右各日誌の記載に依拠し、これと同趣旨の供述をしている。そこで、以下これらの信用性について検討する。

人が記録する日誌、日記は、その者が現実に経験した事実をそのつど記載したものであれば、それは、その記載に係る事実を認めるについての有力な証拠となり得るものであり、右各日誌の記載についても右の条件を満たすものである限りこの理が当てはまるものであろう。しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、原告は当時向丘高校の事務職員ではあったが、事務室の窓越しに教諭らの出退勤状況を見ていたというのであり、しかも時には席を立つこともあったというのであるから、どれほど正確に教諭らの出退勤状況を把握していたかは疑問であるといわなければならない。そして、右各日誌並びに原告の右尋問結果及び供述記載を除くその余の各証拠を検討すると、前掲〈書証番号略〉(同被告の出勤簿)には、右と反対に、前記各日の欄に、出勤を示す押印がある。しかして、かかる出勤簿の証明力については前記二3(二)(2)に判示したように考えるべきであるところ、右各証拠及び同被告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すれば、右各日に係る押印は、それぞれ右各日又はこれに近接した日にされたものと認めるのが相当である(原告の主張によれば昭和五九年三月一九日当時のものであるという前掲〈書証番号略〉の記載を前掲〈書証番号略〉のそれと対比してみても、昭和五八年一二月二六日ないし二八日の各欄等のついてとは異なり、前記各日の欄については両者に押印があるのである。)。そうであるとすれば、前掲〈書証番号略〉の同被告の出勤簿の記載は、高い証明力を有するものというべきである。

してみると、これらの出勤簿の記載に反する、前記の原告の日誌の記載、尋問結果及び供述記載は、必ずしも、正確に教諭らの出退勤状況を把握できる訳ではない者による供述であるに止まることにかんがみ、これに右各出勤簿の記載を越えるような証拠価値を認めることはできないといわざるを得ない。

そのほか、同被告が前記各日に勤務をしなかったとする原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) そうすると、丙事件の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰する。

第三結語

以上によれば、甲事件の訴えのうち、被告後藤、被告佐藤及び被告饒村に対し、昭和五八年八月分の各定時制通信教育勤務手当に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求並びに被告平林に対し同月分の通勤手当に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求(被告後藤に対し二万三五三五円及びこれに対する昭和五九年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告佐藤に対し金一万八七〇九円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告饒村清司に対し金三万二七八〇円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告平林に対し金一万〇七〇〇円の支払を求める各請求)並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し右各被告に支給された各手当に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求を除くその余の各請求に係る訴え、乙事件の訴えのうち、被告佐藤に対し昭和五八年九月分の給料等に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求及び被告柳田に対し同年五月分ないし昭和五九年四月分の各給料等に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求(被告佐藤に対し金六万二〇六八円及びこれに対する昭和五九年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員の、被告柳田に対し金一五四万八〇三七円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める各請求)並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し右各被告に支給された右各給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求を除くその余の各請求に係る訴え並びに丙事件の訴えのうち、被告宮本に対し、昭和五九年一月分の給料等のうち昭和五八年一二月二二日及び二三日に係る部分を減額しなかったこと並びに昭和五九年二月分の給料等のうち同年一月五日及び六日に係る部分を減額しなかったことによる不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求(被告宮本恵理子に対し金二万七五七六円及びこれに対する昭和五九年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める)並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し被告宮本に支給された右各給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求を除くその余の各請求に係る訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下することとし、甲事件の請求のうち、被告後藤、被告佐藤及び被告饒村に対し、昭和五八年八月分の各定時制通信教育勤務手当に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求並びに被告平林に対し同月分の通勤手当に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し右各被告に支給された各手当に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求、乙事件の請求のうち、被告佐藤に対し昭和五八年九月分の給料等に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求及び被告柳田に対し同年五月分ないし昭和五九年四月分の各給料等に係る不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し右各被告に支給された右各給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求並びに丙事件の請求のうち、被告宮本に対し、昭和五九年一月分の給料等のうち昭和五八年一二月二二日及び二三日に係る部分を減額しなかったこと並びに昭和五九年二月分の給料等のうち同年一月五日及び六日に係る部分を減額しなかったことによる不当利得の返還及びこれに対する法定利息金の支払を求める請求並びに亡中村佑二訴訟承継人被告中村らに対し被告宮本に支給された右各給料等に係る損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中込秀樹 裁判官喜多村勝德は転補につき、裁判官長屋文裕は差支えにつき、いずれも署名押印することができない。裁判長裁判官中込秀樹)

別表〈省略〉

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